影喰 (かげぐら)

@FaceMask

闇と虚無

現代――この世界は《システム》に支配されていた。

人は生まれながらに属性と才能を持ち、学園に入学すると同時に《鑑定》によってその力を評価される。


炎を操る者は兵士となり、

光を纏う者は英雄として讃えられ、

稀に現れる《希少属性》は世界の法則すらねじ曲げる。


だが――すべての才能が光り輝くわけではない。


中には「無価値」とされた者もいた。

その一人が、黒石蓮 (くろいし・れん)。


◇◆◇


「……《闇》、か。」


教室にざわめきが広がった。

初等鑑定の水晶に触れた瞬間、現れた文字はただ一言。


《属性:闇》


「ぷっ……! また闇かよ。」

「ハズレだな。役立たず決定。」

「闇なんて攻撃にも防御にも使えねぇだろ。」


笑い声が重なる。

教師でさえ、微妙な表情で口を噤んだ。


蓮は俯いたまま、その視線をただ受け止める。

反論しない。反論しても意味がないからだ。


◇◆◇


数年後――。

蓮は学園に通い続けていたが、評価は常に最低だった。

ギルド志望者の実技試験でも、彼は「荷物持ち」か「囮」として扱われる。


「おい、蓮。今日のダンジョン実習、一緒に行こうぜ。」

声をかけてきたのはクラスの中心にいる少年、白峰亮真 (しらみね・りょうま)。

火の属性を持ち、すでにCランク冒険者候補と呼ばれる存在だ。


「……俺でいいのか?」

「もちろん。お前にも役割があるだろ?」


亮真は笑顔を浮かべたが、その目には冷たい光が宿っていた。

蓮は気づきながらも、黙って頷いた。


◇◆◇


ダンジョン――。

それはこの世界で最も危険であり、同時に力を得る場所でもあった。

モンスターを討伐し、素材を換金し、スキルを鍛える。

全ての冒険者にとっての試練の地。


蓮たちのパーティは順調に進んでいた。

亮真の炎が敵を焼き払い、仲間がそれを支援する。

蓮は後方で荷物を背負い、時折石を投げるだけ。


だが――突如として現れた中級モンスター、影狼 (シャドウウルフ) の群れが全てを変えた。


「やべぇ……数が多い!」

「退け! 一旦下がれ!」


仲間たちが叫ぶ中、亮真はちらりと蓮を見た。

その目は、既に決めていたかのように冷酷だった。


「……悪いな、蓮。」

「え……?」


次の瞬間、仲間たちは一斉に退いた。

残されたのは――蓮一人。


「待て! おい、亮真っ!」

叫んでも、返事はなかった。


影狼たちの咆哮が響き渡り、蓮に飛びかかる。


◇◆◇


「……はは、結局俺は、捨て駒か。」


刹那、牙が肉を裂こうとした瞬間――

蓮の胸の奥から、何かが爆ぜた。


黒い靄が立ち昇り、空間が歪む。

狼たちの影が引きずられるように、蓮の周囲へ吸い込まれていく。


「な、に……これ……?」


――呑み込む。

――奪う。

――すべてを《虚無》に還す。


次の瞬間、群れを成していた影狼たちは、跡形もなく消え失せていた。

残ったのは――静寂と、蓮の足元に広がる黒き空洞。


そして、その闇の奥から――


「――ようやく見つけた。我が主よ。」


獣の声が、蓮の心に直接響いた。


◇◆◇


世界に見放された少年。

彼の闇は、ただの闇ではなかった。


それは《影を喰らう虚無》。

すべてを呑み込み、軍勢へと変える禁忌の力。


黒石蓮の物語は、ここから始まる――。

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