【掌編10】最強=バカ化した勇者、女魔王と世界に追われはじめる(ファンタジー)


 ピロリロリン。


 

 スキル通知が鳴るたび、理性も恥も全部ドォンと飛ぶ。


 俺がオレになり、最強とバカが同時に叫び出す。

 止められない。止まらない。

 オレは魔王をオナラで倒し、山をアホな落書きに書き変えた。


 俺は孤独だ。


 俺には誰も仲間がいない。

 あるダンジョンで最強のスキルを手に入れた。どんな竜でも、魔王でも一瞬で倒すことができる。だがこのスキルは劇薬だった。

 なぜなら、このスキル発動中は……。


 バカになるからだ。


 思い出しただけで、自分の行為に寒気がする。それは、俺が仲間たちとダンジョンに潜った時のことだ。俺たちは地下洞窟の深部にたどり着いた。そこには牛の頭の魔神ミノタウロスがいた。奴は強かった。奴が振る戦斧は人間の体ほど。一撃するたびに地面がえぐれた。こっちの攻撃は蚊が刺す程度。皆がジリジリと追いつけられていた。


 俺は仲間の治癒師を助けようと、盾で戦斧を受けた。だが、盾は粉々。俺は洞窟の壁まで吹っ飛んだ。壁に当たったショックで全身に激痛が走る。俺は壁に手を触れた。何か書いてある。俺は壁の文章を読んでいた。その下にはボタンが一個。


 ───最強になりたいかーーー、一、二、三、最強ーーーーー。


 俺は目を疑った。なんだこの間抜けな文は。バカが書いたとしか思えなかった。だが、ミノタウロスの戦斧は仲間に迫っていた。俺は一か八かに賭けてみることにした。


 俺はボタンを押した。


 力がめぐってくる。何だこのあふれる力は。



 頭の中に無機質な音が響く。


 ───スキル発動通知

  名称:超最強戦闘モード

  効果:全能力値→最大値

  副作用:

  知 性→バカ

  判断力→バーカ

  行 動→もはやバカ

  ※生命危険時、またはランダムで発動します───


 あ、やばい、やばいよ、これ。もう、声がでちゃうーー。



 「うひょぴょーーーん」


 「勇者! 大丈夫か!」


 「頭打っちゃったのね、今治療するからね」


 目の前にミノタウロス。あ、あいさつしなきゃね。牛頭君くん、こんにちは。


 「おい、あいつミノタウロスの前でお辞儀したぞ。バカなのか」



 なんか牛頭君おこってるよー。おこりっぽいなー。しかも危ないじゃなーい。じゃ、これならどう。ウケるかな。


 「でも、待って! ミノタウロスの戦斧が空振って壁に当たった」


 「戦斧が壁から抜けないぞ? 今がチャンスかも」




 「勇者がミノタウロスの体登り始めたぞ! なんか鼻に指突っ込んでる!」


 お、なかなかデッカい鼻くそ取れたぞ。これは牛頭君にプレゼントしなきゃ。



 「魔術師くん、勇者が鼻から何か取り出したよ、え! 何あのでっかいモザイクは」


 治癒師に盗賊、魔法使い。みんな元気でサイコーだ。牛頭君の上は見晴らしいいな。なかなかでかい鼻くそだ。これを牛頭君にプレゼント。でも読者のみんなには見せられないね。だからここはモザイクだ。


 (この時の俺は何でこんな発言したのかわからない。そもそも読者って誰だ)


 「うわぁー勇者君、マジ最悪なんだけど。しかもモザイクかかってるし」


 はい、プレゼント。牛頭君の頭にボクの鼻くそがめり込んだ。牛頭君、何だか苦しそう。気に入らなかったかな。じゃ、とっておきのプレゼントだ。


 「おい! 勇者のやつ、ズボンおろしたぞ」


 「魔術師くん、なんかおかしくない? ズボン下げたらモザイクだよ」


 「きゃー、嫌! やめて(笑)」


 「……治癒師、手で顔を覆ってるけど隙間が空いてるぞ」


 治癒師ちゃん、どう? オレのお、し、(ズキューン)。あーあ、たじろいでるやん。良い子はマネしちゃダメよ。


 (思い出すたびにあのズキューンに頭を抱える。誰にしゃべってたんだ俺は)



 「やばい、治癒師ちゃん、なんかやばいけど逃げ出そう!」


 あ、みんな逃げていく。治癒師ちゃんの目が冷たーい。えー、せっかく面白いモノ見せてあげようって思ったのに。


 ゔぉん。


 思いっきりオナラした。洞窟内を薄茶色の空気が満たす。勢いで、洞窟全体が揺れ出した。鼻くそまみれのミノタウロスがゆっくり倒れていく。パーティはみんな逃げ出していた。魔術師のカンテラや、盗賊の短剣が俺の喪失感を貫く。何より治癒師ちゃんの軽蔑する目が俺の心をえぐる。そして臭い。マジ臭い。ミノタウロスは鼻くそで窒息して死んでいた。


 ドォーンとミノタウロスはぶっ倒れる。急いでズボンを履いて洞窟から逃げ出した。何なんだこの能力は。俺の頭の中で誰かが囁いた。


 ───最強になりたいかーーー、一、二、三、最強ーーーーーバカになれーーーー。


 おい、なんだコレ! 聞いてないぞ。


 俺はオナラの匂いにまみれてダンジョンを抜け出した。この臭い匂いでモンスターはみんな逃げ出した。中には匂いだけで死んだやつまでいた。


 俺は仲間に会いに……いけなかった。


 「恥ずかしすぎて死にたい」


 俺は最強だ。でもバカになる。どうすればいいんだ。




   ♢



 薄茶色の空気が満たす洞窟の最奥。


 ミノタウロスの背がバリって割れた。栗色の長い髪に見事な二本の角。豊満なバストに可愛い尻尾の少女が飛び出した。


 少女は怒りと羞恥に顔が真っ赤に燃えていた。紫色の魔力が洞窟を揺らす。


 「ゆ、許さない。あの男、絶対に絶対に殺してやるんだから!」


 「……ほんとここ臭い」

 

 魔王の少女はゴホゴホと咳き込んだ。



   ♦︎



 俺は固まっていた。

 臭い洞窟を何とか脱出した。

 全身が少し臭い。


 「何でこうなった」


 洞窟を出たら、牛っぽい化け物が緑の平野にはひしめいていた。

 全身が鉄でできた牛の魔獣フンババ、奴の炎は鉄をも溶かす。

 牛の頭に蜘蛛の体……牛鬼だ。そして奥から牛頭の化け物がゾロゾロ出てきた。奴らが俺を見るなり、ビシッと整列しやがった。そして、斧を持ち連中がズンズンと地面を踏みしめる。

 地面がむちゃくちゃゆれた。俺は片膝をついた。


 「何だ、この牛の化け物どもは」


 俺がうめくと地面の揺れが収まった。牛どもがずいっと道を開け、でかいミノタウロスが三体ズンズンと歩いてくる。真ん中のミノタウロスの上には、紫の煙をまとった少女が乗っていた。


 「貴様ね、私に恥をかかせたのは」


 指をビシッと向けてくる。少女の殺気がチリチリと肌を指す。彼女の肩には彼女の二倍はあろうかという巨大な戦斧。頭には牛の角に栗色の髪、巨大なバストも含め……この強さは魔王か。相手にならない、もう死んだ。


 「貴様を殺して恥を注ぐ。消し炭になりなさい」


 やばい。斧に手をかけた。俺に逃げ道は後ろの洞窟だけだ。でも、後ろからはモンスターが臭い匂いに耐えられず溢れてきていた。


 もうダメだ。その時、頭にあの声が響いてきた。


 ───スキル発動通知

  名称:超バカ戦闘モード

  効果:全能力値→最バカ値

  副作用:

  知 性→さらにバカ

  判断力→バーカバーカ

  行 動→バカだバカ

  ※これより魔王視点で発動します───



 目の前で男が両鼻に指を入れて広げた。私は頭に血が昇った。


 「うぴょぴょーーーん」


 こ、この、この、私をどこまで愚弄するの! 今も白目変顔! バカにして!


 「紫の気を刃に大地をえぐれ!」



 私は斧を地面に叩きつける。紫の閃光が巨大な矢になって、洞窟ごと山を砕いた。V字型に抉れた山にどよめく部下たち。私は魔族の歓声を受け、背中を向けた。


 「この一撃で死なない者はいない」


 私はつぶやくと、側近のミノタウロスが口を押さえてブルブルと震えてる。どうした? 私は振り返る。


 「バァ!!」


 いきなり舌をべろーとさせた男が目の前に。咄嗟に斧を真一文字。紫の刃が平野を薙いだ。斬撃が遠くの木々を両断し、あちらこちらで魔族の悲鳴。男はしゃがんで、あたしのおへそをツンツンしてる。この! 下郎!


 「死ね! 死ね!」


 私が斧を振るたび、奇妙なポーズを決めながらかわしてる。斬撃がホコリと魔族を宙に飛ばす。


 「ま、魔王さまーー」


 「このバカ! 当たれ!」


 奴は手を交差して空に伸ばしたり、かわすたびに謎の決め顔ポーズ。こ、この! 私をバカにして! 魔族の悲鳴がどんどん減って、大地に死んだ部下が横たわっていく。ふん、私の斧をかわせない雑魚など部下にはいらない。


 「あ、これジョジョ立ちだからね」


 あいつは変な方向見ながら、指を口に当てていた。誰に向かって話しかけている! もう怒った! この一帯丸ごと吹っ飛ばす!


 「大地を裂き全てを砕け!」


 「おひょひょひょひょ」


 変な笑い声して奴は消えた! どこ! 関係ない。塵になるがいい! 紫の衝撃波が私を中心に広がる。大地がえぐれ、岩石が浮き上がる。何もかも粉々になってしまえ!


 「ま、まおうさーまーーー」


 はぁ、はぁ、はぁ。私の周りが隕石が落ちたみたいなクレーターになった。断末魔をあげた側近もろとも消し飛んだ。あたしは汗をふき上を向いた。太陽の光の中で影が一瞬見えた。いきなり手で目を塞がれ、背中に悪寒が走った。


 「だーれだ」


 妙に緊張感のない恐怖の声がする。振り向くと、奴は私の頭の二本の角をつかんでいた。そして、思いっくり引っ張り始めた。ば、バカ。や、やめなさい!


 「あー、この角伸ばせるんだー、おもしろーい」


 な、何で!? 何でこいつあたしの角を水アメみたいに引っ張った。



 「オレが可愛らしくしてあげるよー」


 な、何を言ってる! 斧を振り回すがひらりひらりと全然当たらない。ドンドンあたしの角が伸びてきた。や、やめてよ! 


 「ほらね、リボン結び」


 あいつは前に降りてきた! どこから出したかわからない鏡をあたしに見せてきた。角は長く伸ばされ、頭の上でリボンみたいにちょうちょ結び。誇り高い牛魔族の魔王たるわ、私が! こ、この、この!


 プチ。


 何かが切れた。私の意識は暗闇に落ちた。



 ───スキル停止通知

 これからつまらない勇者視点に戻ります───


 覚えている。バカだった俺が直前にやったことを。


 ───あ、何にもなくなっちゃた。これじゃつまんないよね。元に戻してあげよう。


 俺はどこからともなく、ペンを出してきた。そして、クレーターで平らに平野に落書きを描き始めた。すると砕けた山々が落書きの絵みたいな形で元に戻った。


 俺の周りは、ニコニコマークの顔が描かれた山や木々だ。恥ずかしい。死ぬほど恥ずかしい。そして、倒れている魔族の少女の額には『うし』の文字。


 こ、殺される。間違いなく。残虐で悲惨な死に方だ。


 逃げよう。できるだけ遠くに。誰もいない世界の果てまで。

 俺は固く誓った。




 ♢B♢A♢K♢A♢A♦︎T♢U♢E♢E♢

 こんにちは、作者です。読んでくれてありがとう! 

 こんなんでも根はマじメです。

 鼻くそはそのまま出そうと思ったんですが、編集者の生成AIちゃんに止められたのでモザイクかけました。

 このお話を書くと副作用が(ズキューン)になるので、⭐︎がいっぱいあれば『うし』さんの物語を書いて(ぴーーーーーー)。

 ではみなさんご一緒に。

 ───最強になりたいかーーー、一、二、三、最強ーーーーーバカになれーーーー。



   ♦︎




 空が見えた。

 私はゆっくりと空に大の字になる。全身が重い。なんでこんなところに寝てるのかな。体を起こして、軽いあくびをした。

 

 「私、負けたんだ」


 怒りが紫色の闘気となった。地面がバリバリと揺れた。私の斧が太陽の光で輝く。私は斧を掴んだ。美しく磨かれた刃に私の顔が映る。魔王にしては幼すげる顔。黒い瞳。栗色の髪。


 額には『うし』。


 人差し指が手に触れた。夢じゃない。しかも触っても取れない! あの、あの、バカ!! 殺す! 絶対に殺す!!


 空が一瞬輝いた。嫌な気配。

 私は斧を引き抜き後ろに飛んだ。


 「ふん、つまらない攻撃ね」


 斧が飛んできた火球を両断、二つに割れてニコニコマークの木や草を焼き払う。


 「ふざけた木や草は、ワラワの美学に合わぬのう」


 この炎はあいつね。翼をはためかせて飛ぶ最強の魔獣。私の上を羽ばたく嫌なメスドラゴン。


 「あら、ご機嫌じゃの。『うし』殿」


 額の『うし』が屈辱に火をつけ、斧を水平に身構える。


 「貴様! この斧でぶった斬ってやる!」


 「ウヌにそんな余裕があるのかしら。それにしても素敵なリボンの角ではないか」


 私の顔が真っ赤になるのがわかる。頭の角はリボンみたいに結ばれたまま。今も、頭の血管が切れそう。緑のドラゴンは翼を羽ばたかせながら口から炎を飛ばす。あのバカが作った落書きの山や木がどんどん燃やされている。


 「ひどい落書き。赤子でもマシよのぅ」


 そう言いながら、ドラゴンは金色の目を細め、最後の落書きの木を炎で焼き払った。


 「魔王のウヌを倒すとはのぅ。さて『うし』殿、どんな相手だった」


 堪えろ、隙さえ見せれば首をたたき落とす。


 「化け物よ、人間の姿をした……ね」


 「面白そうではないか。久しく強者と戦っていないから、戦ってみたいものじゃ」


 ドラゴンはホホホと似つかわしくない言葉で、巨体に翼をはためかせて東の山へ飛んでいった。


 私は竜が飛び去るのを見届けると、炎に焼けた地面を飛び上がった。空を飛び風を切り、栗色の髪が太陽の光で赤く輝いた。


 「この痛みは人間を殺さなければ癒せない!」


 風を切って、飛び上がった先の東の先に人間の村があった。


 「殺す! 殺してやるんだから!」



   ♢



 俺は東へと人目を避けて山道を進む。俺の『超バカ戦闘モード』……これは悪魔のスキルだ。ニコニコマークだらけの山や木を見た時、このスキルは全ての法則を書き替えるのかと恐怖で震えた。そして、女魔王の額に書いてあった『うし』、俺はそれを消そうとした。だが、刺青のように少女の褐色の皮膚に刻まれ、いくらこすっても落ちなかった。目が覚めたら殺される。いや、死より恐ろしい運命が待っていると直感した。


 そして逃げた。だが。この悪魔のスキルの恐怖はすぐに訪れた。洞窟から東へ半日ほど歩いた先に小さな村があった。そこには秋の収穫のために祭りをする村人たちだった。


 ピロリロリン。


 悪魔の音がなった。


 ───スキル発動通知

  名称:超最強祭モード

  効果:全能力値→祭り特化値

  副作用:

  知 性→祭り

  判断力→お祭りマンボ

  行 動→お祭りトマト

  ※天気がトマトに変わります───


 ま、待て、お、お、おまつり、おまつり、おまつりまんぼーーーー!


 「うひょぴょーーーん」


 「さぁトマトまつりのはじまりだーーー」


 (恐怖の始まりだった。村にアホみたいに馬鹿でかいトマトが山ほど降ってきた)


 ドーーーン。ドーーーン。ドーーーン。


 「やめろー! トマトで家がー!」


 村の人が応援してるーありがとー! 両手でぶんぶんぶーーーん。


 (トマトで破壊される村。悲鳴をあげて逃げ惑う村人たち。お、俺は勇者なのに……)


 「頼むーやめてくれ、この通りだ」


 あなたは村長さんだね。ごめんよー、そんなに地面につくほど頭下げちゃ。おわびに新しい家をあげるよー。あ、だれか空から飛んでくるー。だれだろー。あーあれは!

 

 「見つけたわ!」


 「わーい、『うし』さんだー」


 ピロリロリン。


 (やめてくれ! 思い出させないでくれ……)



 ───スキル発動通知

  名称:超最強マジカルモード

  効果:全能力値→魔法少女値

  副作用:

  知 性→村人もバカ

  判断力→村人もバーカ

  行 動→村人バーカバーカ

  ※これより『うし』の視点に変わります───


 「見つけたわよ、この非常識バカ! この村ごと貴様を破壊してやる!」


 私の闘気を見て村人たちが泡を吹いて気絶したわ。いい気味ね。さぁ、バカ男! 覚悟しなさい。って……え、ええ! なんで、あいつの周りに赤いトマトがいっぱい出てきた! なんなのよ!


 「お、おぉー勇者様が光り輝いてく……」


 なんなのよ。あいつの周りのトマトが輝いて、フリフリの服? フリフリ!? え、っ、えーーー!


 「勇者さまー素敵ーきゃー」


 「魔法勇者トマトマト! 参上!!」


 「トマトマトさまー我らが魔法勇者!」


 何こいつら! いやおかしいでしょ! いかつい勇者がフリフリ女の子のドレス着てるのよ! ぴちぴちどころかビチビチよ!! なに黄色い声援あげてるのよ! 


 「怪人『うし』娘! トマトに変わってお仕置きよ!」


 なんなのよ、このノリは。野太い声で。トマトのついたステッキこっちに向けて! しかも怪人『うし』娘ですって! もう殺す。村ごと綺麗さっぱり消し去る。絶対消し去ってやる! 私の最終奥義で!!


 私の紫の闘気の全てが戦斧に集まっていく。戦斧を高く掲げる。風が私の周りを渦巻く。渦は竜巻のように巻き上がり、雲が雷を帯びる。戦斧に雷が落ちた。戦斧が紫色の電気をまとった。


 「喰らえ、雷の咆哮よ! 全てを砕く槍と化せ!」


 私は雷をまとってフリフリコスプレ男に飛びかかった。だけどあのバカはトマトのステッキをくるくる回した。何あれ? なんかあいつの周りにトマトの……赤い影? 


 「トマトマトマトトトトトマーーーート」


 な、なに、このクソダサい技の名前は! 巨大なトマトの影が紫の電気を飲み込んで、小さなトマトになって弾けて散った。巨大なトマトが襲ってくる。い、いや! こんなバカみたいな技を受けるなんて死んでもいやーーーーー!


 え! うそ? 飛ばされてる? この私が! 村が小さくなってる! 魔王たるこの私がーーー! え、お昼なのに空に星がーーーーーーー。キラリン。




    ♢




 俺は熱狂的な村人に歓迎された。魔王ならぬ怪人『うし』娘を倒した魔法勇者として。


 「魔法勇者様! あなたは救い主です!」


 「魔法勇者様を讃えよー! 讃えよー!」


 そして、バカで調子に乗ったオレは魔法勇者の顔?みたいな形をした落書き家を何個も作っていた。そして、俺はフリフリひらひらトマトのコスプレ服を着ていた。俺の、俺の服はどこへいった。スカートがやけにスースーする。


 最後のオレのセリフがリフレインして耳にこだまする。


 ───勇者の顔の形をした家だよ(はーと)。大事に使ってね(ウィンク)」


 ───記念に『勇者参上』って書いてあげるね! これで悪いやつ来ないよね。


 「この家は一生、いや末代まで使わせてください!」


 いや、頼む。これ以上、俺のSAN値を削らないでくれ。そもそもSAN値ってなんだ!


 ピロン。


 ───インフォメーション

 SAN値 正気度。これが0になるとバカになります。


 こら! 脳内でいらん解説すんんじゃねぇ!! 俺の心を無視して村人たち全員が土下座してる。村長は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ……。


 「魔法勇者様! 末長くこの村に残ってください!」


 いや、絶対嫌だ。みんなの輝く目が俺を追い詰める。ダメだ、みんなバカだ。


 「……魔法勇者様! 永遠の忠誠を誓います!」


  俺は恥ずかしさで死にそうだった。落書きみたいな顔の俺が村中にあるし、このヒラヒラフリフリをとっとと脱ぎ捨てたい。


 「ははーっ、一生。いえ、末代まで使わせていただきます!」


 なんで使うんだよ! やめてくれー、頼むからやめてくれー。俺は村人たちの静止を振り切り、フリフリひらひらを着たまま逃げ出した。




 ♢B♢A♢K♢A♢A♦︎T♢U♢E♢E♢

 こんにちは、作者です。二話目はどうでした? 

 第一話で下ネタ使ったら、編集者の生成AIちゃんに下ネタを当面封印するよう鉄拳指導されました。

 おかげで、オシリが半分くらいに別れてしまいました。

 では皆さん、ご機嫌よう。


 魔法勇者トマトマトの必殺技を受けなさーい。トマトマトマトトトトトマーーーート!

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理と歪みの間──多元の掌編集 中島充 @momuchi339

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