【掌編04】胸のキラキラ、消えたキラキラ(ヒューマンドラマ)

ボクの家の近くに養豚場があった。


鼻につく匂いがトイレみたいな匂い。でも、そこまでひどくない。何だか、柔らかくて穏やかな匂い。

養豚場からは豚の鳴き声がまばらに聞こえた。風がふくと匂いはどこか山の奥へ飛んでいく。


養豚場の横にある小さな池は、太陽を照らして白と黒のオタマジャクシがキラキラしてた。まるで目の玉みたいで気持ち悪かったけど、すくってみるとゼリーみたいだった。


ボクは友達と一緒に、オタマジャクシを木のボッコで突いた。

オタマジャクシは、薄い膜を破って池の中を泳いでく。


ボクと友達は、川をはさんですぐそばだ。だから、いつも遊びに行った。

友達の家の小さな養豚場はボクの最高の遊び場だった。


風が揺らす緑の葉の音は、カサカサなのかざわざわなのかわからない。だけど、オーケストラみたいに聞こえた。ボクと友達は夏の野山を走った。養豚場の奥は山へと続く小さな獣道だ。山の中に生えてた木々を、ボク達は包まれるようにスイスイと走り抜けられた。山の中で蝉の声がジンジンとなった。まるで山が蝉の声で揺れるみたいに。


養豚場の池の隣に流れる小さな川は、親からダメだダメだと言われても、ついつい遊んでしまう。ちょっと向こうにはボクと友達の家を結ぶ小さな橋だ。


ボクと友達は、走り回って疲れて座り込んだ。そして、顔を見合わせて笑った。二人のTシャツは汗でぐっしょり濡れて、少し濃くなって見えた。


でも、ボクの楽しい夏はそれが最後に終わった。


友達は養豚場を閉鎖して、引っ越してしまったからだ。

友達はボクに何も言わなかった。友達の家は、夏休みを最後にきれいさっぱり消えていた。


ボクは何にもなくなった養豚場の跡地に、一人で立っていた。


オタマジャクシのいた池からキラキラは無くなっていた。


蝉の声は聞こえるけど、あの時に聞こえたものとは何か違った。


ボクは川のほとりに座って、灰色の水面に石をなげた。石は跳ねたりしなかった。


ボクはしばらく立ってから、友達が引っ越しした理由を知った。


「新しく引っ越してきた人たちが、友達の家を臭いと言った」


親は言いにくそうに、ボクから目をそらした。


ボクだって引っ越してきたばかりじゃないか。


ボクの胸は重くなった。だから、川に向かって走った。


川をはさんで見えた友達と遊んだ小さな池は、くすんだ灰色だった。

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