第6章 流浪の王妃

第43話 密議

 カルザースは身柄を拘束され、王が定める裁判員による、特別審判を受けることとなった。


 もっとも、カルザースの長男は、素行不良が過ぎて廃嫡されており、その恨みで父親を訴え出た可能性が高かった。


 結局、裁判を通じて、凶行の犯人を特定することはできず、カルザースは嫌疑不十分で釈放された。


 告発した長男は、国王に虚偽の訴え出をし、王族を貶めようとしたとして、法に則り、反逆罪で処刑された。


 司法判断そのものは公正で、何ら瑕疵のないものだった。


 しかし、王の親族、しかも大貴族ですら国権の前には無力であり、ともすれば殺されるという現実を目の当たりにし、貴族たちは震え上がった。


「このままではマズい」


「次は、有力貴族の取りつぶしもあるやもしれんぞ」


「とにかく、カリアスは容赦ない。あの暴走をなんとかしなければ」


 もっとも、強力なカリアスの権力や実力に抗えるはずもなく、貴族たちは相変わらず地団太を踏むばかりだった。


 そんな折、頃やよしと見たカリアスは、ついに、「新王即位に際し、王の母に死を賜る悪弊の禁止」を命じる勅令を公布した。


「我が夫ながら、立派なものだ」


 当事者たるアニスは、カリアスが約束を守ってくれたことに対し、素直に感動した。が、これに猛反発したのが、旧勢力の大貴族たちだった。


「カリアスのやつ、我らをなめ腐りおって!」


 国王の母を殺すのは、王家を封じ込めるための象徴的な慣習であり、またそれを行使する側の政治的地位を高くする、重要な手段でもあった。


 このため、国王の権力を抑制し、なんとか従来の利権を保持したい既得権益層は、意地でもこれをつぶそうと、躍起やっきになった。


「何としてでも、撤回させてやる!」


 彼・彼女らは、最初は、猛烈な勢いで国王に詰め寄った。


 しかし、どうしても翻意は不可能と知ると、カリアスは手強いと見て、批判の矛先を、にわかにアニスに向けた。


 そして、アニスが王妃としての務めを忘れて浪費を繰り返し、あまつさえ姦通を働いて王を欺き、国を傾けているという悪い噂を、これでもか流したのだった。


「ウィストリアの女狐を火あぶりにしろ!」


「クルキアを、元に戻せ!」


 カルザースの呼びかけにより、落ち目の大貴族たちは弱者連合を形成。


 膝詰めで、密議を繰り返した。

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