第18話 ヴァイツァーのパトナ帰還
結婚式から十日後、ヴァイツァーはパトナに帰還することとなった。
元々アニスに同行したのも婚姻を見届けるのが目的で、式が済めばそうする予定だったのだが、さらにヨハンの警固の必要性が生じたからであった。
しかし、クルキアの国内事情や、王家を取り巻く血なまぐさい政治状況を知ったヴァイツァーは、お付きの家臣や侍女だけでは、アニスの身の安全が心許ないと感じていた。
そこでヴァイツァーは急遽、次男のアルフレッドを呼び寄せることにした。
アニスに、
「アルフレッドとは不思議と面識がない。どのような男だ?」
と訊かれたところ、いつもは即座に返事を返すヴァイツァーが、明らかに渋い顔で言い淀んだ。
「そ、そうですな。知識も、能力も、すべて私以上でしょう。しかし、我が息子ながら、少し風変わりな所がございまして」
「風変わり?」
「はい」
ヴァイツァーは、軽くため息をついた。
「子供のころからいわゆる“錬金術”に凝っておりまして。大人になってからも、部屋に閉じこもることが多いのです」
「錬金術か。なるほど、どおりで姿を見かけないはずだ。で、肝心の金はできたのか?」
「いえ、代わりに、我が家に代々伝わる大きなダイヤモンドを燃やしました」
「なるほど。ある種の災厄のようなものだな」
「まさにそのとおりです。それでいてまったく反省していないので、家内は、倅のことを“鋼の精神の錬金術師”と呼んでいます」
アニスは、失笑した。
「困ったヤツだな。しかし、この世に役に立たない人間など、一人もおらぬ。なんとか用いてみよう」
「ありがとうございます。賢く、仕事はできる男です。よろしくお願いします」
皆に見送られての去り際、ヴァイツァーは何度も何度も、名残惜しそうにアニスの方を振り返った。
かくしてアニスはクルキア王家の正式な王妃となり、不穏な空気の漂うパルシャガルには、鋼の(精神の)錬金術師、アルフレッドがやってくることとなった。
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