第3話 母親代わりのアニス様と、かわいい弟

「姉様、お帰りなさい! 敵に勝ったのですね! すごいや!」


 世継ぎの男子であるヨハンが部屋に飛び込んで来た。


 アニスはヨハンを笑顔で抱きしめると、その愛らしい、金色の巻き毛の頭をなで回した。


「姉様が、クルキアの男なんぞに負けるものですか。やつらは、王が即位したら、その母親を必ず殺すような野蛮人でちゅよ」


「うわあ。ひどい。なんて罪深い連中なんだろう」


「そうよ。おまけにやつらは、他国に攻め込んでは、人や物、土地を奪ってばかりの、ろくでなしの集まりなの。もしまた攻めてこようものなら、今度こそ全員たたっ斬ってやりまちゅからね」


「ゴホン」


ヴァイツァーが困惑気味に咳払いをした。


「姫様、エレガントに」


「失礼。言い直します」


「それがよろしいかと」


「あの方たちを、丁寧に切断いたします」


「姫様、そういうところでずぞ!」


 呆れかえるヴァイツァーやエルンストをよそに、アニスはヨハンを抱いて髪の毛を吸った。


「とにかく、かわいいヨハンが大きくなって、立派な領主様になるまで、姉様が絶対に、ずぅぇーったいに守ってあげまちゅからね!」


 アニスは、まだ少年の弟が絡むと、途端に言動がだらしなくなるのが常だった。




 ところがその一ヶ月後、エルンストの主君、ウィストリア国王ルフド二世からアニスに対し、名指しで婚姻の命が下った。


 相手はクルキア王国の王で、無類の戦好きとして知られる、悪名高いカリアスだった。

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