第5話 魔法少女は今日も行く

 モモの家


 あれから、ママに散々怒られたの。夜中、泣きながらひとりで食べた駄菓子の味。いつもより酸っぱかった梅シロップと、いつもより塩っぱかった塩煎餅。思い出すと、また泣けてくるわ。まぁ、悪いのはあたしだから、仕方ないわね。さぁ、早く寝て、明日は久しぶりに学校にいくわ。じゃ、お休み。(zzzz……)


(鶏の鳴き声) (スズメの鳴き声)


 でも、夏休み含めて本当に久しぶりなんで、正直、どどめ色小学校に行く道、忘れてたわ。登校中の小学生の群れを見つけて、後に付いて行って、なんとか登校できたけど、あたしの教室ってどこだっけ? 校門を通ってすぐ、


(子供の嬌声)


「モモちゃん、お久! 今日は学校、来たのね」


 どうやら、クラスメートに見つかったらしい。彼女についていけば教室に行けるわね。でも、誰だっけ? 考えてもよく解らないわ。すると、


「モモちゃん、知ってる? ミカちゃんが行方不明になったの」


 知ってるもなにも、あたしの仕業よ…… (衝撃音)


 そう、あれは夏休みが終わってすぐの事。





 あたしが学校に来ないんで、お友達のミカちゃんからメールが来たのね。


『モモちゃんに会いたいから、今日、どどめ山の山頂まで来てね』


(野鳥の鳴き声)


 どどめ山は、あたしとミカちゃんがいつも一緒に遊んでる場所。久しぶりに会えるんで、ウキウキ気分で出かけたわ。あたしが到着すると、ミカちゃん、もう先に来ていたの。


「モモちゃん、久しぶりね。会えて嬉しい! でも、何で、学校来ないの?」


 あたしは、包み隠さずに例の一件を話したの。かくかくしかじか……


(衝撃音)


「ひよぇぇぇええーー! モモちゃん、『魔法少女』になったんだ。いいなぁ……」


 お友達のミカちゃんは、眼をキラキラ輝かせて聞いてくれたの。ミカちゃんとは幼稚園時代から何度も何度も、『魔法少女ごっこ』で遊んだ仲。戦友っていうわけね。


「ねぇ、モモちゃん。あたし、モモちゃんの魔法、見たい! 見せて、見せて」


 そう言われると仕方がない。他でもないミカちゃんたってのお願いを聞かない訳にはいかないわ。あたしは、この際、ド派手な魔法をお見せする事にしたの。


「解ったわ、ミカちゃん。今から、どどめ山を真っ二つにするから、見てて」


 そういうと、すかさず、 「変身!」 (キラキラ音)


 ミカちゃん、あたしの『港区女子のお嬢様』スタイルを見て、大感動!


「きゃぁああー! 可愛い、可愛すぎます……いつもの、メスガキとは雲泥の差よ」


 ミカちゃん…… 普段は、そう思ってたんだ。


「ミカちゃん、危ないから少し後ろに下がってて」


「うん」


「じゃ、行くわよ! 炉心熔融! メルトダウン!」 (衝撃音)


 あたしは、足元に魔法を放った! 


(激しい轟音)


 次の瞬間、どどめ山山頂は、轟音を立てて両断されたの。




「どぉ? ミカちゃん。これが、あたしの魔法よ! って、あれ?」


 ミカちゃんの姿が見えない。何処にもいない…… 不安になったあたしは、ミカちゃんのいた場所に行くと、その場所には大きな亀裂が走っていたわ……


(衝撃音)


 そう、ミカちゃんは落ちたのね。亀裂に。


 亀裂の底は、とんでもなく深かった。あたしは、魔法で覗いてみたけどまるで見えない。ミカちゃんは、どこまで落ちていったのだろう。生きてるんだろうか?

 全く何も解らないまま、ただ時間だけが過ぎていく。


(渡り鳥の鳴く声)


 山頂に吹く風が心地よくあたしの頬を滴り落ちる大量の冷や汗を乾かしていった。





 あたしは、この事を秘密にした。少なくともミカちゃんの四十九日が過ぎるまで。でも、ミカちゃんのスマホの通話記録を調べれば、あたしが犯人だってわかるけど、この作者のことだからそんな事、気づくはず無いわ。(衝撃音) もっとも、児童文学だから、最終章でちゃっかりミカちゃん再登場だってあり得るかも?


 そんな事に思いを馳せながら歩いていたら、もう教室に到着したわ。入り口、入ってからあたしの席は、すぐ解ったの。机の上に、一輪挿しの花瓶が置いてあったから。誰? 誰が置いたの? これっていじめじゃないの? でも、今のあたしは魔法少女。神にも悪魔にもなれるから気にしないわ。名乗り出て。致命傷で許すから。(衝撃音)


 それはそうと。退屈ね。お勉強の時間ほど退屈なものは無いわ。ママは、『お勉強しないといい大人になれないから』っていうけど、いい大人っていないじゃん。みんな、ハァハァいってるのばっかり。禿の中年がいい大人? 禿だと、魔法少女になれないじゃん。あーあ、早く給食の時間にならないかなぁ……


 で、給食の時間。何これ? カロリーばっか基準にしてるから、主菜が唐揚げ一個…… ふざけんじゃないわ。禿の中年ならこれでいいけど、育ち盛りの小学生を甘くみていちゃ怒るわよ。給食は食育。身体の栄養だけではなく、心の栄養も考えて。


 いろいろ不満もあるけど、明日も学校に来るわ。だって、義務教育だから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

厄災の魔法少女【ASMR版】 キムオタ @kimuota

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画