厄災の魔法少女【ASMR版】

キムオタ

第1話 魔法少女誕生の秘密

 ここは日本の僻地、どどめ町。


 どどめ山と、どどめ川に挟まれた三角地帯。鉄道も通ってなく、一日一便のバス路線があるばかりよ。人口一万に満たないこの平和な町から、世界を震撼させる魔法少女の物語が始まるの…… 

 

 

 モモの部屋


 ハロー、みんなぁ! あたし、民木モモ【たみきもも】。いい、ぜぇっ~たいに間違えないでね。『みんき』じゃ無いから、『たみき』だから。間違えたら作者が大変なことになるから、肝に命じてね。


 それはともかく。現役バリバリの小学二年生なの。女子小学生っていうとハァハァするおじさん、いるけど。あれ、最低ね。タヒんでいいわ。あたしって自分でいうのも何だけど、ポチャポチャっていうかムチムチっていうかとにかく男好きする身体ね。でも、期待しないで。児童文学にそんな展開ないから。


 ヘアースタイルは、ママにやってもらうお下げ髪。時々、お団子にするけどお気に入りよ。禿の中年って髪型変えようがないから哀れね。


 顔は普通の日本人かな。でも、たま~に『ヒロコもぎたてフルーティー』とか言われるけど、何のこと? そんなの女子小学生が知ってるはずないじゃん。


 あと、あたし。パパはいないから。パパって言っても『パパ活』のパパじゃないわよ。お父さんね。あたし、ママと二人暮らしなの。でも、ちっとも寂しくなんかないわ……


 だって、あたし………… 完全無欠の『魔法少女』だから


 さてと。やっぱり、最初は『魔法少女誕生の秘密』ね。これ話しとかないと先に進めないじゃない? でも、聞きたい? 本当に聞きたい? 後悔するわよ。


 最初にこの話を聞いた、お友達のミカちゃんは……既に草葉の陰だし。次に聞いた元担任の先生は……交通事故で植物人間よ。二度あることは三度あるっていうけど、本当に聞きたい?


 そうなのね。仕方ないわ……じゃあ、覚悟しといてね。


 まず、あたしのママの事を話す必要があるわね。ママは貞子に似てるけど、前髪を上げると凄~い美人なの。深窓の乙女って感じね。料理はあまり得意じゃないみたい。左手首に包丁傷がいっぱいあるの。でも、あたし。優しいママが大好きよ。


 ママって趣味が独特なの。『骨董品集め』よ。い~え、そんな高額なものじゃないわ。近所のフリマで500円ぐらいで買ってくるものばかり。例を挙げると、


(BGM開始、般若心経)


 頭のもげた仏像とか、夜中に髪の毛が伸びる日本人形とか、人魚の木乃伊とか、良くわからない形状の動物の骸骨とか、目線が合う幽霊の水墨画とか、五寸釘が一杯打ってある藁のお人形さんとか、お札が一杯貼ってある壺とか、錆びて抜けない日本刀とか、東南アジアの面長の仮面とか、裏がべっとりしている般若の面とか、明らかに人間の手で砕かれている土偶とか、一か所だけ銃弾が貫通した穴が空いている旧日本軍のヘルメットとか、猿か何かの黒焼きとか、頭が二つある白蛇の剥製とか、足首が入ってる硝子の靴とか、最後の頁が怖い言葉で埋め尽くされている日記帳とか、お札に包まれている変な指とかetc…… あ、日記帳はママのだった。


 そんなコレクションがあちこちに一杯あるあたしの家は、さながら秘宝館よ。


(BGM終了)


 このあいだ、リサイクルSHOPの店員さんに出張見積もりを頼んで来て貰ったんだけど、速攻、逃げ帰ったわ……確か、『特級呪物』って言ってたわね。失礼しちゃうわ。プンプン。


 でも、ママのコレクションの中であたし、一つだけ気になるものがあったの。表紙が真っ赤でべとべとしててドッシリ重い羊皮紙の本……



 ママの書斎


「これ、何かしら? 題名も良くわからない変な本」


 あたし、それを手に取ってジッと見ていたら、ママが入ってきたわ。


(ドアの開く音)


 すると、その様子に気づいたママが、優しくこう言ったの。


「モモちゃん、その本、欲しいの?」


 慌てて、あたし、首を振ったわ。


「ち、違うの…… 何か、変な本だから、気になるの……」


 それを聞いたママはふぅと溜息をついて悲しげで神妙な面持ちで言ったの。


「そうね。小学生になって、ママ、モモちゃんに一杯、本を読んでもらいたいから…… それ、あげるわ。大事にしてね」


 あたし、ビックリ! ママ、大好き! でも、疑問があるの。


「貰ったのはいいけど、これ日本語じゃないから、あたし、読めないんだけド……」


「そうね、アラビア語ね。じゃぁ、必要ならママが翻訳してあげる」


 ひょぇぇえー! ママって、アラビア語が解るの? 凄ーーい!


 早速、あたし、聞いてみた。


「ねぇ、これ何ていう題名の本?」


 ちょっと間をおいて、ママは、冒涜的で名状し難い笑みをたたえてこう言ったわ。


「……ネクロノミコンよ」


(衝撃音)


「根暗?な未婚? 根暗で未婚って最低ね」


 こうしてあたしは、『根暗乃未婚ネクロノミコン』を手にいれたの。



 さてと……ここまでいい? まだ、大丈夫? 気分悪くない?

 この辺で、黄色い救急車、呼ばれてもおかしくないんだけど……


(救急車のサイレン)


 さぁ、ここからが本番よ。怒涛の展開になるから、覚悟してて。



 モモの部屋


 元々、絵本が大好きだったあたし。速攻で本を開くと大感動! そこには、冒涜的で名状し難い複雑な図柄が満載だったわ。


「うわぁぁあー! 素敵! 綺麗な絵が一杯あるわ」


 円や四角、放射線や五芒星など。全く意味はわかんないけど、とっても不思議で魅力的。文字もわかんないけど、そんなのどうでもいいわ。あたしはそれから数日間、次々と頁をめくると、そこに描かれる複雑な図柄に魅了されたの。


 めくるめく神秘と背徳の図柄。あたしの眼はあたしの身体から離れて、遠い宇宙の硝子の森を彷徨ったわ。


 そのうちのひとつ。赤丸で朱書きされた図柄が目に留まったわ。


「あれぇ? 何でこれだけ、赤丸が付いてんの?」


 でも、その図柄はひときわ複雑でとても魅力的に見えた。こうなると、お絵描き好きなあたしは、居ても立っても居られない。お気に入りの24色クレヨンセットと本を抱えて一目散に外に飛び出したの。


 家の前の駐車場 (車のクラクション)


 家の前の駐車場は、あたしのお絵描きキャンバス。アスファルトの地面にクレヨンで縦横無尽。一心不乱に、不思議な図柄を大きく描き写したの。訳わかんない文字もそれなりに描いてみたわ。


 描き終わった後、冷静になってよく見ると、


(不安を煽る音)


「……何かが違う。本の図柄と見比べてみても、何か足りない?」


 本とアスファルトの図柄を何度も見比べてみると、本の方には図柄の真ん中に何か描いてあるわ。掠れてて良く見えないけど虫眼鏡で拡大して見ると、何かの動物の首みたい?


「何? これ? 猫さんかな犬さんかな? もしかして、人間?」


(衝撃音)


 でも、人間の首なんてすぐ用意できないから、この際イワシの頭でいいわ。あたしは、家に帰って、ママに聞いてみたの。


 家のキッチン


「ママァ! イワシの頭、無い? お供え物に必要なの」


(冷蔵庫の扉を開ける音)


 ママはふふっと微笑むと、冷蔵庫を開いてイワシの頭をもぎ取ったの。


「これで、いい?」


「ラッキー! ありがとう、ママ。これで、十分よ」


 すると、ママは首を振ってこう答えたわ。


「いいえ、まだ足りないわ。呪文の詠唱が必要よ」


「呪文? 詠唱? 何、それ?」


 ママは、あたしの抱えていた本を手に取ると、赤丸の付いた頁を開いたの。


「ここに、アラビア語で描いてあるこれよ」


 ママが指し示すところを見てみたけど、意味不明な言葉が描いてあるだけよ。


「読めないよ、これ」


 ママは、自信満々にこう言ったの。


「翻訳するわね。英語にすると、『That is not dead which can eternal lie, And with strange aeons even death may die.』よ」


(Beep音)


 やっぱり小学生には無理だった。ママは手際よくスマホを取り出すと、流暢なアラビア語で録音したの。


(上記英文のアラビア語翻訳文の読み上げ音声)


「これを、再生するといいわ」


 あたしは、言われるままママのスマホを受け取った。でも、何でママ。あたしのやろうとしている事、そんなに良く知ってるの? 


 家の前の駐車場 (車のクラクション)


 一抹の不安があるものの、あたしの好奇心は治まらない。速攻、駐車場に戻ると、イワシの頭を図柄の真ん中に置いたの。


「これでいいわね。じゃぁ、呪文っていうの、ON!」


 スマホから流暢なアラビア語が再生された。


(上記英文のアラビア語翻訳文の読み上げ音声)


 何が始まるのか? 興味深々、あたしの好奇心は頂点に達したわ。



 数秒後、イワシの頭が、(ケケケケケケケケケケケケ……)と、笑ったの。


 そして、アスファルトの地面が、(ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……)と、鳴動したわ。


 何処からか聴こえる、笙と神社鈴の音色。(笙と神社鈴の音色)


 それに、和太鼓の音が加わった時、(笙と神社鈴の音色と和太鼓の音)


 イワシの頭の上に……

 

 冒涜的で名状し難い黒雲が渦巻いたの。

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