川は変わらず流れていて、桜が咲くのが待ち遠しい。

まずは騙されたと思って第1話を読んでもらいたいです。その衝撃的な引きからあれよあれよとリバーサイドの世界に引き込まれてしまうはずです。

本作は短編連作の形をとり、同じ川辺に住む人々がそれぞれの人生を送りながら少しずつ交差していくお話が続きます。

同棲していた彼女が既婚者だった話。
新興宗教を信じる親の元に生まれてしまった少女の話。
酒造で始まる大人の恋の話。
離婚後に和菓子屋を手伝う女性の話。
老人ホームでバイトする双子の弟のことを知っていく兄の話。

それぞれのお話は柔らかく絡み合いますが決して干渉せず、中心を流れる川のようにあるがままを優しく映しています。ただほのぼのしているだけでなく、各自の悲しみも人の優しさもぎゅっと詰まっていて「人間」って良いものだなと思います。

本作の特長はリアルな人間模様の他に、そこに登場する様々な食べ物の描写です。生活の一部として登場する料理はとても美味しそうなものが多く、特に和菓子屋の話で登場する「裏メニュー」のエピソードは美味しさとは何か、ということがたっぷり詰まっています。他にもたくさん美味しそうなシーンがありますが、和菓子屋の娘が考える美味しい大福の食べ方については是非読んでいただきたいです。

ラストはふわりと、暖かい風が吹くように読んだ人の心にも春がやってくるような心地がありました。もっともっと多くの方に読んでいただきたいと思います。

その他のおすすめレビュー

秋犬さんの他のおすすめレビュー1,266