第49話究極の選択
不死の軍勢は途絶えることなく湧き上がり、俺たちを黒い水面の中央に追い詰めていく。
槍を振るい、必死に抗いながらも、胸の刻印は容赦なく疼き続けた。
『死を選べ、アレン・ストラウド。死はお前の力となる。生を選べば、仲間も村も呑まれるだろう』
ヴォルグの声が闇を満たす。
選択を迫るように、結晶が眩い赤黒の閃光を放ち、不死の兵は倍にも増えて襲いかかってきた。
「アレン! ダメだよ、もう無理だってば!」
ナギサが必死に爪を振るい、俺の前に立ちふさがる。
小さな体は血に濡れ、震えながらも瞳は真っ直ぐ俺を捉えていた。
「アレンが死ぬなんて絶対に嫌! アレンはナギサのものなんだから!」
「……けど、このままじゃ全員が……」
ミレイユの声は震えていた。だがその目には、覚悟が宿っていた。
「死んで強くなるたびに、あなたは蝕まれている……。でも、それでも前に進むしか……」
海斗も短剣を握り、俺を睨みつけた。
「アレンさん、俺だって戦う! だから一人で抱え込むな! 俺も、俺の命だって賭ける!」
仲間の声が胸を締め付ける。
選択は俺に委ねられていた。
死を選び、力を得るか――生を選び、仲間に賭けるか。
刻印が焼ける。視界が白く染まる。
意識の奥で、俺は魔王の姿を見た。
かつて仕えた“あの方”が、背を向けて去っていく幻影。
(あのときの俺は、ただ守られていただけだ。……でも今は違う)
「俺は――!」
喉が裂けるような声を上げ、槍を振り抜いた。
その瞬間、黒い軍勢が光に弾かれる。
俺は死を選ばず、刻印の代償を強引に引き出し、生きたまま力を解放したのだ。
全身に黒い痕が広がり、痛みが骨の奥を焼いた。
それでも、俺は倒れなかった。
「俺は死なない! 生きて仲間と共に、この村を守る!」
叫びと共に、黒い水面が裂け、光が差し込む。
試練の空間が崩れ、俺たちは再び現実の村の広場へと引き戻された。
結晶は鈍い光を放ちつつも、以前より弱々しく脈動している。
――試練は終わった。だが代償は、確実に俺の体を蝕み始めていた。
眩い光が消え、再び村の広場に戻った俺たちは、地に倒れ込んだ。
結晶は中央に浮かび、赤黒い脈動を弱めながらも、不気味な存在感を放ち続けていた。
「……終わったのか?」
海斗が荒い息を吐きながら、結晶を見上げる。
その顔には恐怖と安堵、そして小さな自信の色が混じっていた。
ナギサが俺の胸にしがみつき、必死に顔を覗き込む。
「アレンっ……! 死んでないよね!? ナギサを置いていったりしないよね!?」
涙声で叫ぶその姿に、俺は片手を伸ばして頭を撫でた。
「大丈夫だ……まだ、ここにいる」
だが、その手には黒い痕が深く刻まれていた。
村人たちはその痕を目にし、不安そうにざわめいた。
「また……死の力を使ったのか……」
「強いのは分かるが、あの痕が広がれば……」
ミレイユは疲れ切った顔で、それでも毅然と口を開く。
「アレンは死を選ばなかった。それでも代償を抱えながら、私たちと共にここにいる。それだけは確かです」
その言葉に、場のざわめきがわずかに静まった。
だが、不安の火種が消えたわけではない。
俺は槍を支えに立ち上がり、結晶を睨んだ。
「……これは終わりじゃない。試練を乗り越えても、結晶はまだ残っている」
結晶は弱々しい光を瞬かせるだけだった。
だが確かに、完全には消えていない。
「壊すのか、封じるのか……」
長老が険しい顔で呟く。
「どちらにせよ、このままでは村は脅威にさらされ続ける」
村人たちが互いに顔を見合わせる。
誰もが決断を避けたいと願いながらも、その時を迎えていることを理解していた。
俺は胸の痛みを押し殺しながら、強く告げた。
「次は――この結晶をどうするか、決めなければならない」
広場の空気が張り詰める。
新たな脅威は、まだ完全に去ってはいなかった。
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後書き
第49話では、結晶が突きつける“究極の選択”が描かれました。アレンは死を選ばず、代償を抱えながらも生きて力を解放し、仲間と共に試練を突破します。
次回は、試練を経た後に村人たちがどのような決断を下すか、そして結晶が残す新たな脅威が明らかになります。
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