第44話黒外套の兵

ヴォルグの指先がわずかに動いた瞬間、黒外套の兵たちが一斉に襲いかかってきた。

 その数は十や二十ではない。森の木々の影から次々と姿を現し、俺たちを包囲する。


「来るぞ!」

 俺は槍を構え、仲間たちを背に庇う。


 最前列の兵が大剣を振り下ろす。

 槍を突き上げ、火花を散らしながら弾き返す。

 続く二人目を横薙ぎで薙ぎ払い、黒外套ごと地面に叩きつけた。


 だが、倒れても動きを止めない。

 鎧の隙間から黒い霧が漏れ、肉体を操るように立ち上がってきた。


「……不死か」

 息を呑む。ヴォルグの兵は、ただの人間ではなかった。


「アレン!」

 ナギサが背にすがりつき、必死に尾を膨らませる。

「やだ……いっぱい来る……!」


「下がってろ!」

 叫びながら突きを繰り出す。

 槍の白光が三人目の胸を貫き、霧を霧散させた。

 不死であろうと、芯を砕けば止まる――そう理解した瞬間、再び群れが押し寄せてきた。


 海斗が叫ぶ。

「俺だって……やれるはずだ!」

 手にした短剣を握り締め、兵の一人に飛びかかる。

 刃は浅く肩を裂いただけだが、黒外套が注意をそらし、その隙に俺が突きを決められた。


「……ナイスだ、海斗!」

「は、はいっ!」

 彼の顔は恐怖に引き攣っていたが、目だけは決して逸らしていなかった。


 ミレイユは震えながらも呪文を紡ぎ、仲間の傷を癒していく。

「これ以上……誰も傷つけさせない……!」


 戦いは熾烈を極めた。

 不死の兵は次々と立ち上がり、倒しても倒しても終わらない。

 だが、仲間と共に連携し、少しずつ数を減らしていく。


 その様子を、ヴォルグは仮面の奥から冷ややかに見下ろしていた。

「……なるほど。確かに死を糧とする力。

 だが、その仲間たち――いずれ足枷となろう」


「黙れ!」

 俺は最後の兵を突き飛ばし、血に濡れた槍を構え直す。

「この力は俺一人のためじゃない。仲間がいるから、俺は立てる!」


 その言葉に、ナギサが涙をこぼしながら笑った。

「うん……ナギサも一緒に立つ!」


 ヴォルグはしばし沈黙し、やがて仮面の奥で笑ったように見えた。

「……今日はここまでだ。次に会う時、貴様がどこまで立ち続けられるか、見せてもらおう」


 指先が再び動き、残った兵たちが一斉に霧となって消えていく。

 黒煙の陣も崩れ、森に再び静寂が戻った。


 だが、その静けさは決して安堵ではなかった。

 ――試された。

 俺たちの覚悟も、力も。


 ヴォルグとの本当の戦いは、これから始まるのだ。


____________________

後書き


 第44話では、ヴォルグ配下の不死の兵との初交戦を描きました。仲間たちがそれぞれの役割を果たし、連携の力で切り抜けますが、ヴォルグは姿を消し、真の戦いはこれからであることを示します。

 次回は、戦闘後の村での対応と、ヴォルグが残した影響に直面する展開となります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る