第43話黒外套の“主”

森の奥に広がる黒煙の陣。その中心で、仮面をつけた男が静かに立っていた。

 漆黒の外套が風に揺れ、赤黒い文様が不気味に輝く。

 その存在感は、ヴァルガとは比べ物にならなかった。


「やっと出てきやがったな……」

 槍を構えながら、俺は低く呟く。


 仮面の男が口を開いた。

「ヴァルガを倒すとは……やはり“死を糧とする者”か。

 名は確か――アレン・ストラウドアレン・ストラウド。魔王の部下でありながら、いまは人間を守る盾を気取るか」


 全身に悪寒が走る。

 なぜ俺の名と過去を知っている?


 ナギサが俺の背にしがみつき、震える声で叫ぶ。

「アレンに触るな……ナギサが許さない!」


 ミレイユは結晶を睨み、顔を蒼白にしていた。

「……この魔法陣、ただの残党の仕業じゃない。王都で封じられていた禁術の系譜……どうしてこんな場所に……」


 海斗が額に汗を浮かべながらも、強がって言う。

「お前が“主”か……! じゃあ、お前を倒せば全部終わるんだな!」


 仮面の男が冷笑を浮かべる。

「倒す? 愚かだな。ヴァルガですら足止めに過ぎん。

 私は――ヴォルグ=アストレイド》。

 “黒外套”を束ね、この世界の均衡を正す者だ」


 その名を聞いた瞬間、背筋が凍った。

 “アストレイド”――かつて魔王の配下の中でも、最も危険とされた古き血脈の名。


「貴様が……!」

 思わず槍を握り締める。


「力を誇示するだけの魔王に仕え、雑兵として捨てられた貴様が……人間を守る? 滑稽だな」

 ヴォルグの声が鋭く響き、周囲の黒外套が一斉に武器を構えた。


 地面の結晶が脈動し、黒煙がさらに濃くなる。

 呼吸が苦しいほどの瘴気が広がり、ナギサとミレイユが咳き込み、海斗が後ずさった。


「くそっ……」

 俺は仲間を庇うように前に出る。

「言いたいことはそれだけか? 俺は何度でも立ち上がる。村を、仲間を――守るためにな!」


 ヴォルグの仮面がわずかに傾いた。

「……ならば証明してみせろ。死を超えて立ち続けるその愚かさを」


 その合図と共に、黒外套の兵たちが一斉に襲いかかってきた。

 森の静寂は、瞬く間に修羅場へと変わった。


____________________

後書き


 第43話では、ついに黒外套を束ねる“主”ヴォルグ=アストレイドが登場しました。彼の目的はまだ明らかではないものの、その存在はアレンの過去とも深く結びついています。

 次回は、ヴォルグ配下との激突と、彼の真の狙いの一端が明かされる展開となります。

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