第42話黒煙の森へ

 西の森に黒煙が立ち上ると報せが入ったのは、まだ村人たちが昨夜の瓦礫を片付けていた最中だった。

 疲労と安堵の空気は一瞬で凍り付き、誰もが顔を見合わせる。


「……ヴァルガを倒したはずなのに」

 ミレイユが震える声で呟いた。


 海斗が唇を噛み、俺の隣に立つ。

「まだ……終わってないんだな」


 俺は頷き、槍を肩に担ぐ。

「黒外套の“主”が動き始めてる可能性が高い。村を守るには、先に動くしかない」


 ナギサが不安そうに尻尾を揺らし、俺の手を掴んだ。

「行くの……? アレン、また死んじゃうかもしれないのに……」


 その声に胸が痛む。

 だが、逃げるわけにはいかない。

「死んでも立ち上がる。それが俺の力だ。だから心配するな」


 ナギサは泣きそうな顔で首を振り、それでも小さな声で言った。

「……ナギサも一緒に行く」


「……危険だぞ」

「分かってる。でも、アレンを一人にはしない」


 その強情さに苦笑しながらも、俺は彼女の決意を受け入れることにした。

 もはや彼女は、ただ守られる存在ではない。


 村の長老たちは協議の末、少人数での偵察を決定した。

 選ばれたのは、俺、ナギサ、海斗、そしてミレイユ。

 海斗は目を輝かせていた。

「今度こそ……俺も役に立ってみせる」


 西の森は、朝靄に包まれていた。

 湿った土の匂い、枯れ枝を踏みしめる音。

 やがて、焼け焦げた大地が姿を現す。


「……これって……」

 海斗が息を呑む。


 森の奥に、黒煙を吐き出す巨大な陣が刻まれていた。

 見慣れぬ文字と紋様が地に描かれ、中心には歪んだ黒い結晶が脈動している。


「黒外套の残党……いや、“主”の仕業だな」

 俺は低く呟いた。

「ヴァルガを失った今、奴らは次の手を打ってきた」


 その時、森に不気味な笑い声が響いた。

 木々の影から、無数の黒外套が姿を現す。

 その背後には、漆黒の仮面をつけた男が立っていた。


「……ようやく来たか、魔王の部下」

 その声は冷ややかで、全身を凍らせるような威圧感を放っていた。


 俺は槍を構え、仲間たちを背に庇う。

 黒外套の“主”が、ついに姿を現した。


____________________

後書き


 第42話では、西の森に現れた黒煙の正体を追うアレンたちの探索を描きました。ついに黒外套の“主”が姿を現し、次なる戦いの舞台が整います。

 次回は、“主”との初対峙と、その正体に迫る展開となります。

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