第3章:迫り来る影、新たな誓い

第41話再生の朝

 戦いの夜が明け、村にはようやく静けさが戻った。

 だが広場にはまだ瓦礫が積み重なり、焦げた木の匂いが漂っていた。

 村人たちは互いに肩を貸しながら残骸を片付け、傷ついた者の介抱に追われていた。


 俺は崩れ落ちた家の梁に腰を下ろし、槍を膝に立てかけていた。

 全身の痛みは鋭く、胸に刻まれた代償リスクの痕がまだ赤黒く脈打っている。

 それでも、昨夜より呼吸は幾分楽になっていた。


「……生きて、朝を迎えられたな」

 呟いた言葉は、自分への確認のようでもあった。


 そこへナギサが駆け寄ってくる。

 すすで汚れた顔のまま、俺の腕に抱きつき、子猫のように擦り寄ってきた。

「アレン、もういなくならないで……ナギサ、怖かったの……」


 その声に胸が締め付けられる。

 俺は苦笑しながら彼女の頭を撫でた。

「心配かけたな。でも、もう大丈夫だ」


 ナギサの尻尾が小さく揺れ、ようやく少し笑顔が戻った。

 その光景に、周囲の村人たちが複雑な表情を浮かべる。

 恐怖と警戒、そしてわずかな安堵――昨日と変わらず、俺を見る目は揺れていた。


「……アレンさん」

 ミレイユが歩み寄り、両手を胸の前で組んで言った。

「私は、あなたを信じると決めました。でも村全体が同じ気持ちになるには、時間が必要です」


「分かってる。無理に信じろとは言わない」

 俺は立ち上がり、槍を肩に担いだ。

「だからこそ、行動で示すしかない。この村を、守り抜くってな」


 海斗も近づいてきた。

 彼は疲れ切った表情の中に、奇妙な決意を宿していた。

「……俺も昨日、みんなの前で叫んだけどさ。本当は怖かった。アレンさんの力も、あの炎も。でも……見てたんだ。あんたが死にそうになっても立ち上がる姿を。あれで分かったんだ。俺も――逃げちゃいけないって」


 その言葉に、俺は彼を真っ直ぐ見返した。

 海斗は現代から転移してきた少年。まだこの世界の常識に馴染めず、空回りばかりしていた。

 だが今、その瞳には迷いを超えた光が宿っていた。


「いい目だな。だったら、お前も自分の戦い方を見つけろ」

「……ああ。俺なりにやってみる」


 その会話を遮るように、村の門の方から使者の叫び声が響いた。

「煙だ! 西の森から黒い煙が上がってる!」


 ざわめきが広がり、村人たちが一斉に顔を上げる。

 俺は槍を握り直し、胸の鼓動を抑えるように深く息を吐いた。


 ヴァルガを倒してもなお、“黒外套”の脅威は終わっていない。

 新たな戦いが、すでに迫っていた。


____________________

後書き


 第41話では、ヴァルガ討伐の翌朝を描きました。アレンとナギサの絆が改めて示される一方、村人たちの不安は拭いきれず、海斗も新たな決意を抱きます。

 次回は、西の森に現れた黒い煙の正体と、黒外套の次なる動きが明らかになります。

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