第36話死闘の幕開け
槍と黒炎がぶつかり合い、凄まじい衝撃が広場を揺らした。
爆ぜる炎の音、木々が崩れ落ちる轟音、そして村人たちの悲鳴。
村全体が、二人の戦いに巻き込まれていた。
「お前の力……死を代償にしたものか」
ヴァルガが低く呟き、片手で黒炎を操る。
「ならばいずれ朽ち果てる。愚か者よ、その身で証明するがいい」
「黙れ!」
俺は槍を振りかざし、炎の壁を突き破る。
突撃と同時に穂先がヴァルガの外套を裂き、赤い火花が散った。
確かな手応え――だが、浅い。
「ほう……今のを受け止めるとは」
ヴァルガは笑みを浮かべた。
次の瞬間、黒炎が大地を這い、俺の足元を絡め取る。
「ぐっ……!」
焼け付く熱が脛を包み、皮膚が焦げる匂いが漂う。
俺は必死に槍を振るい、黒炎を断ち切った。
だが、その間にもヴァルガは悠然と歩み寄ってくる。
「見ろ、これが力の差だ。死を繰り返しても、所詮は人の器。魔王の後継たる我を超えることはできぬ」
村人たちの顔が絶望に染まっていく。
「だめだ……勝てない……」
「もう逃げ場はない……」
「レイン!」
ナギサが泣きそうな声で叫ぶ。
「やめないで! 立って!」
その声に、俺は槍を強く握り直した。
胸の刻印が脈動し、血管が熱く滾る。
死を超えた力――代償は重い。だが、それでもまだ立てる。
「俺は……まだ終わらない!」
叫びと共に再び突撃する。
槍の連撃が黒炎を裂き、ヴァルガの腕を掠めた。血が飛び散り、初めて奴の表情が険しくなる。
「……小癪な」
ヴァルガの瞳が赤く光り、周囲の炎が一斉に渦を巻いた。
まるで村そのものを呑み込もうとする巨大な火柱が天へ伸び上がる。
村人たちが悲鳴を上げる中、俺は必死に槍を構えた。
限界は近い。だが――ここで退けば、全てを失う。
死闘は、まだ始まったばかりだった。
黒炎の渦が天を突き破り、夜空を赤黒く染め上げる。
その圧に村人たちは地に伏し、誰もが絶望に顔を歪めていた。
「見ろ。これが我と貴様の差だ」
ヴァルガの声が轟き、炎がさらに膨れ上がる。
「死を何度繰り返そうと、器が小さければ意味はない」
「……俺は、器なんてどうでもいい」
全身を焼くような痛みに歯を食いしばり、俺は槍を構え直した。
「俺はただ――この村を守る!」
槍を振り抜く。
炎の奔流を切り裂き、ヴァルガに肉薄する。
だが奴は片手で黒炎を凝縮し、槍の穂先を受け止めた。
「守るだと? 雑兵風情が笑わせる」
押し返され、体が後方へ弾かれる。
肺から血が溢れ、視界が揺らぐ。
その時、背後から声が響いた。
「レイン! まだ終わらないで!」
ナギサの叫び。
続いて、ミレイユの震える声。
「どうか……どうかもう一度、立ち上がって……!」
そして海斗も歯を食いしばり、村人たちに叫んだ。
「みんな、怯えるな! あの人が立っている限り、まだ希望はある!」
その声が、焼け爛れるような痛みを一瞬忘れさせた。
胸の刻印が脈打ち、力がまた溢れ出す。
代償は重い。それでも、今はただ前に進むしかない。
「……俺はまだ、折れない!」
再び大地を蹴り、ヴァルガに向かって走った。
その一撃は炎と闇をかき分け、奴の外套を大きく裂いた。
ヴァルガが初めて眉をひそめる。
「……なるほど、ただの人間ではないな」
赤い瞳がぎらつき、炎の渦がさらに狂暴に唸る。
戦いは激化し、次の瞬間、誰もが避けられぬ真実と覚悟を目にすることになる。
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後書き
第36話では、レインとヴァルガの本格的な戦いが描かれました。圧倒的な力の差に追い詰められながらも、レインは仲間の声に奮い立ち、必死に抗います。
次回は、戦いの最中にレインの正体と覚悟が明かされ、物語はさらに大きな転機を迎えます。
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