第32話三度目の死
炎が村を包み、赤黒い夜が地獄へと変わっていた。
屋根が燃え落ち、火の粉が舞う。村人たちの叫びと黒外套の咆哮が重なり合い、耳を突き破るように響く。
俺は槍を振るい続けた。
しかし背中の傷は深く、力が抜け落ちていく。視界が霞み、足が鉛のように重い。
敵を倒しても、すぐに次が押し寄せてくる。
「レイン!」
ナギサが駆け寄り、必死に俺を支える。
小さな体で俺の重みを受け止め、涙を溢れさせながら叫ぶ。
「もう無理だよ! 休んで! 死んじゃう!」
だが俺は首を振った。
「……守らなきゃ。村を……お前を」
次の瞬間、黒外套の大男が炎を背に現れた。
肩に獣の頭蓋を飾った指揮官。昨日取り逃がした因縁の相手だ。
「また立っているとはな……死を嘲る怪物め」
重い剣が振り下ろされる。
槍で受け止めたが、力の差は歴然だった。
刃が押し込まれ、足元の地面が砕ける。
「レインっ!」
ナギサの悲鳴が耳を打つ。
俺は最後の力で反撃しようとしたが、脇腹に蹴りがめり込み、体が宙を舞った。
石畳に叩きつけられ、肺から息が抜ける。
立ち上がろうとした瞬間、敵の剣が胸を貫いた。
――またか。
熱い血が溢れ、呼吸が途切れる。
耳鳴りが広がり、全てが遠ざかっていく。
ナギサの泣き声も、海斗の叫びも、炎の爆ぜる音も。
ああ、また死んだのか。
そう思った瞬間。
『スキル発動――
脳裏を裂く声と共に、体の奥底から膨大な熱が爆発した。
砕けたはずの心臓が再び脈打ち、血が逆流する。
目を開いた時、世界は全く違っていた。
炎の揺らめきすら遅く見える。
敵の呼吸が数十歩先から鮮明に伝わる。
そして槍を握る手は、もはや鉄すら容易く砕けるほどに強靭だった。
黒外套の指揮官が目を見開く。
「馬鹿な……貫いたはず……!」
俺は何も答えず、一歩踏み込む。
槍が閃き、男の剣をへし折り、その胸を貫いた。
炎の中で血が噴き出し、指揮官は呻き声を残して崩れ落ちる。
周囲の黒外套が凍り付いた。
恐怖に震え、誰もが後退する。
「レイン……」
ナギサが呆然と俺を見上げた。涙で濡れた瞳が揺れる。
村人たちも言葉を失い、ただ俺を凝視していた。
勝利。
だが同時に、俺の存在は人を守る盾であると同時に、恐怖の象徴となりつつあった。
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後書き
第32話では、レインが三度目の死を迎え、スキル「死者強化」の第三段階へと突入しました。その力は圧倒的で黒外套の指揮官すら打ち倒すに至ります。
次回は、その力の余波と村人たちの恐怖、そして黒外套の「主」の存在がいよいよ動き出す様子が描かれます。
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