第26話血と覚醒
轟音が大地を震わせ、柵の一角が完全に崩れ落ちた。
土と木片が飛び散り、そこから黒外套の兵が雪崩れ込んでくる。
村人たちが悲鳴を上げ、広場へと駆け出す。
「踏ん張れ! 下がるな!」
ダリオの声が飛ぶが、数は圧倒的。弓矢では追いつかず、敵は村の内部に侵入していた。
俺は槍を構え、ナギサを庇いながら敵に突っ込む。
鋭い刃を叩き落とし、返す突きで胸を貫く。血が吹き出し、周囲に鉄の匂いが広がった。
だが、敵は止まらない。次々と押し寄せ、柵を越えた
「レイン! 西側、子どもたちが!」
ミレイユの叫び。視線を向けると、数人の敵が納屋に駆け込もうとしていた。そこには逃げ遅れた子どもたちがいる。
俺は咄嗟に駆け出した。
だがその瞬間、敵の指揮官が立ち塞がる。肩に獣の頭蓋を飾った大男――奴の目は獲物を見据える獣そのものだった。
「よくも我らの手を煩わせたな、人間」
低い声と共に、重い剣が振り下ろされる。
避けきれない。槍で受け止めた瞬間、骨を軋ませる衝撃が腕を貫いた。
刃が押し込まれる。
胸に焼けるような痛み。熱い血が喉を逆流し、口から吐き出された。
「レインっ!」
ナギサの悲鳴が耳に届いた。視界の端で彼女が飛び込もうとするのを見た。
俺は必死に笑みを作り、唇を動かす。
「……下がれ……」
次の瞬間、剣が胸を貫いた。
世界が暗転する。
冷たい。息ができない。音が遠ざかり、心臓が止まっていく。
ああ、これで……終わりか。
――その時。
『スキル発動――
脳内に響いた声が闇を裂いた。
全身を灼くような熱が走り、倒れ込んだはずの体に再び力が満ちる。
視界が赤く染まり、血の匂いが異様に鮮明に感じられた。
――蘇った。
周囲の村人たちが絶句する中、俺は地面に落ちた槍を掴み取る。
胸の傷は消えない。だが痛みは消え、代わりに膨大な力が血管を駆け巡っていた。
「な、何だ……死んだはず……!」
黒外套の指揮官が後ずさる。
俺は返事をせず、槍を振るった。
一撃。重い刃が敵の盾ごと胸を貫き、鮮血が噴き出す。
周囲の黒外套が怯み、後退する。
背後からナギサが泣き叫ぶ声がした。
「レイン……死んだと思った……! でも……生きてる……!」
彼女は震えながらも、俺にしがみついた。
だが村人たちの表情は違った。
ミレイユは涙を浮かべながらも口元を押さえ、信じられないという顔。
ダリオは矢を番えたまま俺を睨みつけ、低く呟いた。
「やはり……人間じゃない」
海斗は口を開け、膝を震わせながらも言葉を絞り出した。
「すげぇ……でも……あれ、本当に人なのか……?」
空気が凍り付く。
恐怖と畏怖、そして安堵が入り混じった視線が俺に注がれていた。
それでも今は考える暇はない。
森の奥から、さらに多くの足音が迫っていた。
戦いは、まだ終わらない。
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後書き
第26話では、ついにレインが致命傷を受け、スキル「死者強化」が再び発動する場面を描きました。蘇生と共に圧倒的な力を得た一方で、その光景を目撃した村人たちの心に恐怖と疑念が広がっていきます。
次回は、蘇生直後の混乱の中で、村人たちと黒外套、そしてレイン自身の運命がさらに激しく揺さぶられることになります。
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