第10話試しの眼差し
村に泊まった冒険者たちは、翌朝になっても腰を落ち着けていた。
焚き火のそばで剣を磨き、時折こちらを盗み見る。
村人は珍客を歓迎しつつも、巨猿の件で浮かれきれない。
皆が心の奥で「なぜ流れ者が一人で倒せたのか」と思っていたからだ。
「レイン」
声をかけてきたのは、隊の先頭に立つ青年冒険者だった。
肩までの黒髪を後ろに束ね、瞳は鋭い。名は
「昨夜は聞けなかったが、やはり確かめておきたい。お前、本当に巨猿を仕留めたのか」
「……ああ」
短く答えると、ダリオの唇が歪む。
「なら、見せてもらおう。森の奥で別の獣が暴れていると聞いた。共に狩り、力を証明してくれ」
村人たちの視線が集まる。
断れば怪しまれる。受ければ正体に近づく危険がある。
迷いを悟らせまいと、俺は静かに頷いた。
「いいだろう。案内してくれ」
森の中。
木漏れ日が地面を斑に染める。ダリオたちは足音を殺し、周囲を警戒して進む。
俺はその背を追いながら、手にした槍の重さを確かめた。
死んで強化された身体は、いまだ慣れないほどの力を宿している。
「……来るぞ」
ダリオの声。
茂みを割って現れたのは、
牙は人の背丈ほどもあり、突進を受ければ柵すら吹き飛ぶ。
冒険者のひとりが矢を放つが、毛皮に弾かれた。
「囲め!」
ダリオが叫ぶ。
だが猪は暴れ、若い冒険者を弾き飛ばした。血が地に散る。
「くそっ!」
考えるより先に、俺は地を蹴った。
猪の牙が迫る。
槍を構え、力の限り突き出す。
鈍い音と共に、槍は胴を貫いた。
衝撃が全身を走るが、押し返す力の方が勝っていた。
猪が地を抉りながら倒れ伏す。
森に静けさが戻る。
冒険者たちは驚愕に目を見開いていた。
「……本当に、一撃で」
「信じられん……」
ダリオだけは表情を崩さなかった。
むしろ瞳の奥に鋭い光を宿し、低く言った。
「やはり只者ではないな。……だがその力、どこで得た?」
返答に詰まる。
森の風が冷たく頬を打つ。
村のために戦わざるを得ない。だが力を示すたびに、正体に近づく者が現れる。
沈黙を破ったのは、背後から駆け寄ったミレイユだった。
心配そうにこちらを見つめ、息を切らして言う。
「レイン……無事?」
「ああ」
答えながらも、ダリオの視線は俺から逸れなかった。
彼の目には“真実を暴こう”という決意が宿っていた。
____________________
後書き
今回は冒険者たちが主人公を試す場面を描きました。
力を証明することで村は守られたものの、外から来た者に疑念を抱かれる結果となります。
次回は、この疑念がさらに深まり、主人公が立場を守るために新たな決断を迫られる展開になります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます