第6話 冷めたスープと知性の刃
長いテーブルの上に、冷え切った朝食が並んでいた。
スープもある。だが、すでに冷たさを帯びており、湯気の影も残っていない。まるで一度燃え尽きた火の残骸のように、ただそこにあるだけだ。
椅子に腰を下ろす前、俺はザルドに声をかけた。
「……あの、すいません。昨日、自分の能力の“ガチャ”について、少し分かったことがあって」
黒革のマスクで顔の半分を隠したザルドが、ちらとこちらを見る。
その視線は夜目に光る獣の眼のようで、妙に心臓が縮む。
だが、彼は口の端を緩めた。
「おお。何か掴んだか。少し待て……いや、先に飯を済ませろ。カルナスを呼んでくる。頭の切れるやつだ。今後のことを考えるには、あいつが適任だ」
隠された顔の下から、確かに笑みが滲んでいた。鋼の仮面に走る、わずかな人間味。
昨日、洗礼を受けた組の三人――カイナス、ポッコ、セイラは固まって座っていて、俺の席も空けてくれていた。俺はそこへ歩み寄る。
「で? スキルはどうだったんだ、“ガチャ”」
三人同時に身を乗り出す。問いは矢の雨のように容赦がない。
「副団長のシリルさんが言ってたよな。カイのスキルが一番期待できるって」カイナスが言う。
俺は苦笑しながら言葉を探した。
「……詳しく、なんて言えばいいのか分からないんだけど。何でもかんでも、できちゃいそうな気がするんだ」
ポッコが目を丸くする。
「なんだよそれ、無敵じゃん」
セイラが瞳を輝かせて身を乗り出す。
「もっと詳しく教えてよ」
カイナスは肩を竦め、だがどこか楽しげに笑った。
「同じ時に獅子の紋章に入った仲だしな。なんか皆で一緒にいられる気がするぜ」
気づけば、俺も笑っていた。冷めたスープも、固いパンも、仲間と分け合えば妙に温かい。
食事を終える頃、扉が静かに開いた。
「カイくん、いるかい」
澄んだ、しかし男にしては妙に高い声が室内を切り裂いた。
声の主――カルナスが立っていた。
二十八歳。細身の肢体は女性のように繊細で、黒衣の影に立つと、まるで風が人の姿を取ったように見えた。
その瞳には、知性の刃が潜んでいる。光を吸い、影を断ち切る冷ややかな刃だ。
俺は思わず手を挙げて返事をした。
「はい、俺です」
三人が吹き出す。
「なんで手を挙げるのよ!」セイラが笑う。
常識の違い。そんな些細なことで、赤面する自分が滑稽に思える。
カルナスの瞳が俺に向けられた。黒曜石のように冷たく、しかし微かに熱を孕んでいる。
「……ご飯は済ませたね? なら話そう。ここでいいだろう。君のスキル――分かる範囲で教えてくれるかな」
その声は、刃を抜き放つ前の冷気のように、胸に突き刺さった。
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