L-2 「Let me see…her -全年齢版-」


 小柄な女だった。前髪を切りそろえていて、腕は細く、子供のようにも見えたが、立ってみるとはたして、ロンソンのライターのようであった。友達の伍如田と並んでソファに座る。


「これ……ですか?」

「そう、これだよ。すごいんだ」

 伍如田は笑顔で答えた。女の子は少し緊張した様子で身をすくめた。

「違法じゃないんですよね?」

「もちろん。安心して。これはただのハーブティーの香り実験だから」

 女の子──文乃は安心して頷いた。好奇心いっぱいの目で伍如田の手元を見つめる。

 伍如田は小さな瓶から少量のハーブ液を取り、ワタシを使ってほんのり温める。甘くてふわっとした香りが部屋中に広がる。

「深呼吸してみて」

 文乃は言われた通りに息を吸い、ゆっくりと吐き出す。

「はい、ここに横になってー。目を閉じて、もう一回深呼吸してみて」

 文乃は楽しそうに体を動かす。布団の上で手足を伸ばしたり丸めたり。まるで香りの効果で体が軽くなったように、くるくる動いている。

「貸したDDAはちゃんと使ってる?」

「あ、はい。指示通りに」

「エライねー」

 DDA──夢を見るための安全な機械をかぶると、ウィーンと音を立てて作動した。文乃は少し驚きつつも、楽しそうに目を閉じて香りの世界に入る。


 しばらくして文乃が目を覚ますと、ふかふかの布団の上でゆっくり伸びをしていた。軽く笑いながら「面白い夢を見た」と小声でつぶやく。

 伍如田は「おかえり、どうだった?」と聞く。

「楽しかったです」と文乃はうなずき、水を一口飲む。

「どんな夢見たの?」

「ひ、秘密です」

「そっかー。でも楽しめた?」

「はい、すっきりしました!」

 ふたりは笑いながら夢の感想を話し合い、香りの実験は無事終了。文乃は安心した表情で、今日も元気に過ごすのだった。

 ワタシは純子に思いをはせた。

 あの美しい横顔をした女が、元気でいてくれればいいのだが。

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