放置ゲー転生。レベルを犠牲にスキルを会得、これが一番最強の道だって俺だけが知っている〜放置してりゃ勝手にレベルが上がるってのに、村の娘が俺を放置してくれない件〜
第4話 報酬:《拠点》シリオン村を獲得しました
第4話 報酬:《拠点》シリオン村を獲得しました
ゴブリンを倒した直後。
「……助けてくださって、本当にありがとうございました!」
少女は深々と頭を下げた。
薄茶の髪がさらりと揺れて、慌てて顔を上げる。
「わ、私、シュエルっていいます。この近くのシリオン村に住んでいて……」
自己紹介と一緒に差し出された瞳は、どこまでも真っ直ぐで。
ゲームで見慣れていたただの茶色ドット絵からは想像もできないくらい、生き生きと輝いていた。
「俺は理央、旅をしてるんだ」
不思議とゲーム内のセリフってのは覚えているもので、俺は思わず主人公サイドとして、同じ会話を繰り広げてしまった。
旅なんてしてないのに。
まぁ行き先がないので、これはこれで旅ともいえるか、なんてくだらないことを考える。
「リオ様、ですね! もしお時間あれば、私たちの村を案内させて頂けませんか? 助けてもらった、お礼がしたいのですが……」
分かってる……。
これはチュートリアル、あくまでシュエルも事前に組み込まれたセリフを言っているだけ。
なのに――
そんなおっきな瞳……しかも上目遣いで見つめられると、嫌でもときめいてしまう。
ヒロインを助けるってのはこんなにも心が高鳴るもんだったんだな、ラストリクエストの主人公……いや、世にある作品の全てのヒーローたちよ。
……しかし、村か。
俺は、ステータス画面に浮かんだ初心者ミッションの文字を思い出していた。
報酬:《拠点》シリオン村
やっぱり、ここまではゲーム通りの流れ。
「お、おう。じゃあ……よろしく頼む」
とりあえず行かなきゃ何も進まねぇ。
俺は快く頷き、シュエルと並んで歩いていった。
それから五分くらいか。
森を抜けるのは、思いの外早かった。
そして視界の向こうに見えたのは、木柵に囲まれた小さな集落。
あれが、シリオン村で間違いないだろう。
「おお……ほんとにあったんだな」
まるでゲームで見たまんまの最初の村。
けれど今はドット絵じゃない。
煙の匂いも、子どもたちの声も、ぜんぶリアルだ。
「ふふ、そんなに珍しいですか?」
シュエルは横目で俺に微笑みかける。
「いや、まぁそうだな」
珍しいに決まってる。
今まで画面越しに見てたドットが、現実として目の前にあるんだから。
なんて言えない。
「こちらが私の家です」
立派な木造の一軒家。
いわゆる日本にある一般的な家と同じくらいだけど、このシリオン村においては、随一の大きさを誇る家屋。
さすが、村長の家。
「おじい様、今帰りましたよ〜」
「お、お邪魔します」
玄関を開けると、白髪混じりの大きなひげをたくわえた老人が床に腰掛け、湯呑みをすすっていた。
「お〜今帰ったのか、ワシの自慢の孫娘、シュエルちゃんよ」
甘いジジイ声でこちらを見る。
……なんだ、甘いジジイ声って。
「よいしょっと」
立ち上がった村長はゆっくりと歩みを寄せ、
「さて、お帰りのハグじゃ……」
孫娘に抱きつこうとした瞬間、
「人前でやめてよ、おじいちゃん!」
自慢の孫娘シュエルの手によって、見事阻まれている。
しかし孫娘よりも小ぶりな村長は、完全に力負けしているようだ。
「ぐぬぬ……」
それでも寄り付こうとする村長と、その顔を両手で押さえつける孫娘。
俺は一体、何を見せられてんだ。
シュエルの押さえる手によって首が回旋したおじいちゃんと目が合う。
「あ、ども……」
とりあえず頭は下げとく。
なんたって、この村は初心者ミッションの報酬になってんだし。
「なんじゃ……この男は」
まさに今気づいたような顔。
「おじいちゃん! 今説明するから、一旦落ち着いて座ろ?」
「……シュエルの頼みじゃ。仕方ないのぉ」
と、ようやく元いた席に戻ろうとする。
チッ、ラブラブな時間を邪魔しおって。
多分戻り際、俺の目を見てこう言ってた!
ちっちゃい声で!
なんだ、この爺さん。
ゲームではこんなキャラじゃなかったろ。
「で、シュエルちゃん、この男は?」
村長は胡座を組み、頬杖をつく。
そして如何にも不貞腐れた面で俺を見る。
おい、こちとら孫娘の恩人だぞ。
クソこの野郎、ずっとこの態度で来やがるんなら、村の手助けなんてひとつもしてやらねぇ。
「おじいちゃん、その人はね……」
ようやくここまでの経緯を話すことになった。
* * *
全てを話し終えた。
「――ってことなの、おじいちゃん」
「……うむ」
村長は低く唸る。
「お主、リオ、といったな?」
「え、あぁ、そうだが」
さっきまで俺を鋭い目で見ていた村長は、ゆっくりと足を整え、頭を床に下ろした。
そして、
「あ……あり、ありがとぉぉうございます!!」
嗄れた声を張り上げて、そう言ってきた。
「えぇぇぇぇっ!?」
このジジイ、態度変わりすぎだろっ!
今の今まで俺のこと、シュエルとの間を引き裂くおじゃま虫程度に思ってたくせに!
……ってまぁ、そんだけ大事な孫娘を助けてもらえば、感謝くらいはするってもんか?
とはいえ、そんな悪い気はしない。
「リオ殿、先迄の非礼を詫びさせてくれ。お主がよければじゃが、この村にはいくらでも居てくれていいからのぉ。必要であれば、お主用の家も手配させてもらう」
「お、おう。それは助かる」
な、なんか上手いことゲームと同じセリフにまで行き届いたな。
原作への軌道修正力、強すぎだろ。
「村もお主にやる」
「お、おじいちゃん!?」
「……は? 今、なんて?」
原作への異様な忠実さを誇るこの世界。
誰が聞いても突飛な村長の発言に、この空間はカオスな状態へと至る。
「だからリオ殿、お主にこのシリオン村の村長の座を明け渡すと言っておるんじゃ」
「えぇっ!?!? で、で、で、でもおじいちゃん、それって、私とリオ様が……その、け、結婚、しなきゃ、いけないって、ことじゃ……」
シュエルは耳まで赤く染め、手を大きくブンブンと振っている。
ラストリクエストにはなかった生々しい話題。
そりゃ村をもらうってなりゃ、村長の孫娘ともそういう関係を結ぶってのも自然なこと。
そういえばゲームじゃ村を手に入れてから、常にシュエルがナビゲーター的な役で傍にいたけど、それってもしかして……そゆことなの?
――ピピッ
ちょうどそんな時、いつもの電子音とともに視界の右上にウィンドウが現れた。
【初心者ミッション達成:村娘を救え】
報酬:《拠点》シリオン村を獲得しました
「……どんなタイミングだよ」
俺は思わずそう口にしていた。
「リオ、様?」
「どうしたのじゃ?」
二人の目が同時に向く。
「あ、いや、なんでもないです。どうぞ、話を進めてくださいな」
ゲームの進行もあるだろうと、話の手網を村長へ大人しく譲る。
「……とにかくじゃ、シュエルと結婚するかは置いておいて、この村でゴブリンを蹴りで倒す者など存在せぬ。儂ももういい歳。村にも若い者はそうおらん。だから、お主に村長を、任せてみようと思ったのじゃ。少なくとも、今の儂がするより、よっぽどいい」
そしてさほど間も空けずに、
「わ、私も、リオ様が、村長になって下さるのであれば、安心、でございます」
少し照れくさそうな様子で、シュエルもそう快く受け入れてくれた。
「まぁ今すぐというわけではない。頃合いを見て、引き継いでもらう。そういう話じゃ」
なんか、無理やりな気もするけど、
目の前の二人からは、一切の悪意も感じない。
それにゲームの展開が同じなので、すでに俺の中でも既視感が強く、疑う余地すらない。
まぁ今すぐってわけじゃないみたいだし――
「……お、押忍。高坂理央、このシリオン村、もらい受けたなり」
こうして、俺のラストリクエスト人生は、ようやくチュートリアルを果たしたのだった。
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