1分で読める創作小説 短編集「あんず色の欠片たち」
ゴオルド
短いの
きみが傘を持ってなかったから
きみと付き合うようになって、1年が過ぎた。
「ねえ、どうして私に声を掛けたの?」ってきみは聞いた。
僕は「きみが傘を持ってなかったから」って答えた。
「そんなの理由になってないよ」ってきみは笑った。
でもそうなんだ。本当に。
あれは冬の朝だった。
ちょうど受験のシーズンで、駅前のロータリーには制服姿の受験生がたくさんいた。
雨が降ってきた。
受験生たちは折りたたみ傘をさして、受験会場へと向かっていった。
そんな中、泣きそうな顔をして空を見上げる受験生がいた。あの子は傘を持っていないみたいだ。
僕は、ああ可哀想だなと思った。あの子はこれから受験なのに、雨に濡れてしまうだなんて。あの子がタクシーに乗れたり、あるいは誰かが迎えにきてくれたりしたらいいのに。あるいは、たまたま同じ会場で受験する子が傘に入れてあげるとかさ。そんな都合の良い奇跡が起きないだろうかと考えていたとき。
僕を追い越して、受験生のところに歩いていった女性がいた。
きみだった。
きみは傘をさしだした。
自分が濡れるのもお構いないしに。
迷うことなく、まっすぐに腕を伸ばして、傘を手渡したんだ。
みんなが傘をさして歩いている中、濡れて歩くきみは、特別に見えた。
僕はきみに声をかけた。
「もしよかったら僕の傘に入りませんか?」
きみは一瞬驚いた顔をして、でも、すぐに笑顔になったよね。
だから、どうかきみの優しさが永遠に続きますようにと祈るような気持ちで、「傘を持たないきみが好き」って僕は言い続ける。
そんな特別なきみが濡れないように、いつだって僕の傘に入れてあげたいって思うんだ。
<了>
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