冀禍蠱徠
雲居晝馬
第一話
ありがとう、私の話を聞いてくれて
普段話さないのに、いきなり何の要件だって思ってる?
実は、君に相談したいことがあってさ
だって、君いつも窓際の席でオカルト本読んでるからさ、こういうの詳しいかなーって思ったんだよね
「なんで知ってるの?」って、そんなの当たり前じゃん!君、よく私たちのグループをちらちら見てるでしょ?
君が私のことを良く思ってないのは分かってるよ…。いつもうるさくしてごめん。でも、今回ばかりはどうしても、君にしか相談できなくて…!
うん、かなりオカルトチックな話。それに、私がこんな状態になった理由でもある…
色々つらかったけど、誰にも頼れなくて…
えっ?
ほんとに?
やった!頼もしいっ!
ありがとう!
…
それじゃあ、早速だけど、いいかな?
あっ、その前に一個だけいい?
話を聞く前に、してほしいことがあるの
って心の中で三回唱えてほしいの。
唱えないでこの話をすると、良くないことが起こるらしくてさ。そう、意識するだけで危ない的な。まあ、雑誌の情報だけど、念のために、ね。
…
唱えてくれた?
…
ほんとに?
嘘じゃないよね?
…
よかったぁ
うん、ありがとう。それじゃあ、話させてもらうね。
***
一番最初は、夏休み最後の日だったの
変な夢を見た
いや、もしかしたら夢じゃなかったかも
まるで現実みたいな夢だったから、それが現実なのか夢なのか、よく分かんない
夢の中で、私はベッドの中にいた
正確には、ベッドの中にいる自分を見ていた
まるで幽霊のように体を抜け出して、自分が眠っているのを俯瞰していた
最初、私の意識は、曖昧模糊としていた。ぼーっと、自分の間抜けな寝顔を眺めながら、ふわふわ部屋の中を漂っていた
だけど、突然、空気が重くなった気がしたの
産毛を逆撫でされたみたいに鳥肌が立った
胃から酸の塊が込み上げてくるような嫌悪感があった
肝が冷えて、だんだん意識がはっきりしていく。そこで、私は、奇妙な音を聞いたの
糊をベタベタと引き伸ばすような音と、フローリングを大量の爪で這うような音が聞こえた
どこまでも生物的な音
唾液をたっぷり含んで肉を食べるような、気持ち悪い音
音の出どころを探るように、耳を澄ますと、その音は床の下から鳴ってた
そう、つまりその何かは家の中にいたの…
その音が何なのかは分からない…だけど、はっきり分かったのは、
それが、酷く惨虐な悪意を持ってるってこと……
目覚めようとしたけど、できなかった
恐怖で筋肉が縮こまっちゃって、体が動かなかった
死んだふりをした小動物が、結局、食べられる直前になっても逃げられないような感じ
それは玄関にいるみたいだった
私の部屋は二階の一番奥の部屋だから、玄関からは一番遠い
ゆっくりと蠕動する音が聞こえた
生理的に拒絶反応が出る不愉快な音だった
音が一階のリビングの横にある寝室に向かう
その部屋は、ママの部屋だった
壁を伝って、移動する音が聞こえる
ママが危ない
そう思ったけど、怖くて見に行くことなんてできなかった
臆病者だよね。夢なのに
なんであの時、ママのところまで見に行かなかったんだろう、って今でも後悔してる
ただひたすらに怖かった
どうか早く終わってください、お願いします
私は怯えながら、ずっと祈ってた
それは、ママの部屋に居座ったまま、ガリガリと壁を掻いたり、床を舐めたりしているみたいだった
どれくらいの時間が経ったか
やがて、そいつは再び移動を始めた
ママの部屋から出て、二階へ続く階段を上る
カサカサ、って微細な振動が壁を伝ってる
二階に辿り着いた気配がした
それの振り撒く悪意で分かった
確かにそれは不快な音を出しているけど、それ以上に、放たれる悪意が私を萎縮させた
憎悪の塊のようなドス黒い暴力性に身震いした
扉の向こう、たぶん数メートル先にはいたんだと思う
運良く私の部屋は一番奥だったから、そいつからはまだ距離がある
私は黙ってた
口を覆っていた
それは、階段を上がってすぐの、一番近い部屋に入った
こども部屋
妹の部屋だった
怖い。それしか考えられなかった
必死に耳を覆って、何も考えないようにした
大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫
そう唱え続けた
妹がどうなるとか考えなかった
ただ助かりたいっていうその一心だった
気付いたら、朝になってた
私はベッドの中で眠ってる
朝日が差し込んで、鳥が鳴いてる
ママが一階から私を呼んで、行ったらご飯だった
もちろん、何もいないし、ママも妹も平気
なんともない
夢だった
私は心の底から安堵した
汗でおでことか脇の下がぐっしょり濡れてた
…
はぁ…
それで終わりならどんなに良かっただろうね…
その日。
その悪夢を見た日。
ママと妹は死んだ。
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