第2章 瞬殺の不死者さん、主人公に懐かれる

第12話 瞬殺の不死者さん、王城に帰る

「——ここが、王城……」


 クライフィーバー家への監査という名の主人公救出作戦から一日経った次の日。

 俺は主人公ちゃん——クラリスと共に、昨日の今日で王城へとやって来ていた。


「も、モンド君……王城って、こんなに眩しいものなんだね……住みにくそう」


 マジそれな。正直力を誇示するにしてもやり過ぎよな。


 俺たちが通された王城の一室を眩しそうに見つめていたクラリスの言葉に内心同意しつつ、メイド服を着た彼女を盗み見る。

 まだ彼女が救世主だとバレるわけにはいかないため、俺の側付きとしてこの城に連れてきたのだが……。


「…………」

 

 彼女が着ているのは、メイドカフェやコスプレのようなミニスカとかではなく、俗に言うクラシックと呼ばれるちゃんとしたメイド服。

 ただ野暮ったい印象はなく、クラリスの容姿も相まって非常に似合っていた。


 ふむ……想像以上に良いな。ファンアートで主人公ちゃんにメイド服着せてたの見たことあるけど、現実はもっと可愛い。こんな彼女が中身ゴリラなんて誰が信じるんでしょう。


「……モンド君、見たいなら見たいって言ってね。幾らでも、どれだけでも見せてあげるからさ」


 顔を真っ赤にしながらも、クラリスはズイッと俺に身体を寄せ、上目遣いで俺を見つめる。非常に可愛い。

 しかも相手はこの世界でも有数の美少女だ。幾らでも見せてあげるなんて、男として魅力的な言葉過ぎる。


「……いや、大丈夫だ」


 だが、俺は胸中で歯を食いしばりながら耐えた。

 話を聞けば、彼女が殺される要因になったのは、ガリバードに純潔を捧げたくなくて魔力が暴走したかららしい。

 それなのに俺ががっついたら、あのガリバードと同類になってしまう。普通にあの男と同レベなんて嫌。病原菌呼ばわりされたら立ち直れないぞ俺。


 なんて考えていたその時だった。




「——————えっ……?」




 ポツリとクラリスが声を漏らす。

 おおよそ感情の籠もっていない、恐ろしく低い声。

 驚いて見れば、先程まで真っ赤だった彼女の顔から血の気が引き、俺を見つめる綺麗な金色の瞳からはハイライトが消えている。


 ……あ、あっれぇ〜〜? なんか思った反応とちゃうなぁ……。


「く、クラリス……?」

「モンド君……に、似合ってないかな?」

「いや……」

「あ、あはは……そう、だよね……っ、似合ってないよね……ご、ごめんね……? こんな見苦しいもの見せて……ボクなんかがこの服を着るのも烏滸がましいよね……」


 そう、今にも泣きそうで壊れてしまいそうな顔で言う。


 ここで俺は悟った。

 どうやら俺は会話の選択肢をミスったらしい。というか地雷を思いっ切り踏んだっぽい。


 ま、まずーい! 折角一日経って落ち着いたかなぁ……とか思って気を抜いた途端これかよ!? これ今すぐなんとかしないといけないよね!?


 俺は内心の焦りや動揺を悟られぬように言葉を紡ぐ。


「——クラリス、何を勘違いしている?」

「…………えっ?」


 クラリスが驚いたように俺を見る。相変わらずハイライトがないのが物凄く怖いです。


「いいか、俺はそもそも似合わない物は渡さんし使わせん」

「そ、それって……」

「似合っている、と言っているんだ」

「……っ、そ、そうかな……えへへ……」


 先程までのこの世の終わりを見たかのような絶望の表情から一変、心の底から嬉しそうに顔を綻ばせる。


 一先ずなんとかなった……のか? ふぅ……いやほんと怖いって。地雷があるならそこにありますよって言ってくれないですかね?

 

 なんてクラリスの様子を横目に、俺が内心ホッと安堵に胸を撫で下ろしていると。



「——やぁ、よく来てくれたね」



 ノックも声掛けもなしに、満面の笑みを浮かべたオルカスが扉から入ってきた。

 もちろんビクッてなった。











「——いやー、てっきり来ないかと思ったよ」

「俺だって行きたくなかっ——」

「まぁ来なかったらこの国で住めなくしてたけどね」

「……来てよかったです、ほんとに」


 この人サラッと恐ろしいこと言うじゃん。普通にスルーしそうだったって。


 俺は目の前で朗らかに笑うオルカスをジト目で眺めながら、小さくため息を吐いた。


「……陛下、仮にもこの国の王なんですから護衛くらい付けたらどうなんですか?」

「ん? 護衛は付いてるよ?」

「え?」

「まぁ撒いて来たけどね」


 撒いて来るなよ。護衛の人が可哀想だろ。絶対後で上司から罰が……って陛下が上司か。じゃあ怒られないのか?


「……それで、陛下が俺に何の用ですか? 護衛を撒いたってことは元々会う予定はなかったのでしょう?」

「……フッ、中々鋭いね。実はね、報告で君の他にメイドがいるって聞いたから見に来たんだよ」


 そう言って硬い表情のクラリスに視線を飛ばすオルカス。

 対するクラリスは昨日と違ってしっかりと彼を見つめる。


 そして——そんな二人に挟まれる俺。……邪魔ならどけるよ? 寧ろ気まずいなんてレベルじゃないから退けさせて?


 なんて俺が居心地悪さに身を縮こまらせていると、オルカスが確認し終わったと言わんばかりにクラリスから視線を切って笑みを深めた。


「……なるほど、たった一日で私を真正面から見つめ返せるようになったんだね。それに、目から強い意思が感じられるし……心境の変化でもあったのかな?」


 流石一国を治める王様だ。

 俺に助けて良かったと言ってもらえるように頑張ると宣言したクラリスの心境の変化を感じ取ったらしい。

 

「うん、これなら彼女が救世主になるというのも僅かだけど希望が持てそうだ」

「希望ではなく既定路線ですけどね」

 

 だって彼女、この世界の主人公だもん。それに加えてやる気もあるし、この世界を知り尽くした数多のガチ勢の協力があるんだ。強くならないわけがない。


「ははっ、やっぱり君は面白い。この後も期待しているよ」


 それだけ言うと、ソファーから立ち上がってヒラヒラ手を振りながら部屋の外に出て行くオルカス。

 扉が閉じた直後に怒声が聞こえてきた。……本当に撒いてきてたのかよ。

 

 なんて呆れつつも……。


 ……俺、これから何十何百人規模の貴族たちの前で厨二病演じるのかよ……嫌すぎるんだけど。


 これから自分がしでかす黒歴史確定時間のことを思い、頭を抱える。


 確か俺は、今回の件の立役者として途中から入場することに——








「——あ、一番最初に自己紹介してもらうことになったからそのつもりでよろしくね」








 陛下、ぶん殴ってもよろしいでしょうか?


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 一話にしたかったけど、長くなり過ぎそうだったから二話に分割しました。

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