第8話


 食事もすんで落ち着いたジュンとともに、彼はさらに奥までの道を進んだ。

 目が覚めてどれくらいになるだろうか。

 まだ眠くはならないから、一日はたたないはずだ。


「ピストル、君が持っててくれないかな」

 ジュンが弱気な声を上げた。

「お前が持ってる方が、俺にとっても心強いんだけどな」

 それはピストルを棚の上から発見した後に言ったことだった。


 自分が持っていれば、攻撃できる人間が一人だが、自分がナイフ、ジュンがピストルを持っていれば、二人で攻撃できる。

 それに、ジュンはピストルで自分の身を守れるから、ジュンのことを心配せずに行動できる。

 ロボットの装甲を壊せるかどうかは難しいかもしれないが、ピストルの通用しないくらいに装甲の頑丈なロボットは動きが鈍いし、逃げ切れないくらいに素早いロボットはそれほど頑丈には出来ていないだろうと思われる。


 ジュンの気持ちはわかっていた。

 しかし、すんなり言うことを聞くのは、ジュンの為にもならない気がした。

「俺のためだと思って持っていてくれないか。万一のとき俺を援護してほしいんだ」

 そういう言い方をすれば、ジュンが断れないと思った。

 自分のわがままのために相手を危険にさらすことになるのだから。

 案の定、ジュンは黙ってうなずいた。


「この試験はどのくらい続くんだろうな」

 気分を変えるために彼は言ってみた。

「さあ。もうそれほど長くはないと思うけど」ジュンが小さく答えた。

「まったく、何のための試験なんだろうな」

「わからない。でも、伝染病が発生しなければこんな事にはならなかったはずだよ」

「そうか。あれがまず始めの間違いだったんだからな。航行開始から24年目のことだったな。一万人の乗組員。最初はみな20から30代くらいか。それが40から50代後半になるころだ。そのとき伝染病が発生した。しかし、この閉鎖された宇宙船の中で、まったく未知の伝染病が発生するものなのかな」

「どうだろう。ウィルスはいろんな物が人間の周りにはあるだろうけど、それが突然変異したんじゃない?」

「しかし、それにしてはあまりに凶悪すぎないか? 致死率65パーセントというのは相当悪どいウィルスだぞ」

「何が言いたいの?」ジュンが首を傾げて彼を見た。


「細菌兵器とは考えられないか?」

「こんな移民船に細菌兵器なんていう装備があるかな?」

「だから、誰にも知られないように持ち込まれたとしたら。つまりテロだ」

「しかし、それはちょっと考えにくいよ。密閉された宇宙船の中でウィルスをばら撒くなんて。自分たちも死んでしまうじゃないか」

「テロリストはワクチンをうっていたとしたら? 周りが死んでも自分たちだけは助かることになる」

「なるほど、そうなれば船は自分たちのものだ。行き先を変えるのも自由だ」

「だから100年たっても目的地に着かないのかもしれない」

 沈んでいたジュンの目が活気を取り戻していた。

 下からジュンの潤んだ目が見上げてくる。


「それ、いい線いってると思うよ。じゃあ、僕たちは何なのだろう」

「テロリストしか生き残れなかったのなら、俺たちはその子孫ってことになる。そうだ。ロボットは元の乗務員側で、テロリストたちはロボットに殺されてしまったのかも知れんな」

「じゃあ、あのロボットたちは警察のようなもの? でも、僕らを目覚めさせたものたちは誰だろう」

「結局そこから先はまだデータ不足だな」

 ジュンがまたがっくりくるかと心配したが、それは杞憂だった。

「でも、もうすぐ謎は解けそうだね」

「ああ、二人ならきっと解けるさ」

 二人はしっかりと手を握り合った。


 それから20分ほど歩いた後、多分ここが最後だと思われるドアが目の前に迫ってきた。

 金色のドアだった。

 鈍い光を周囲に撒き散らせている。

 今まで通ってきた扉とは明らかに雰囲気が異なっていた。


「この先に何かが待ってるみたいだな」

 彼は大きく息を吸い込んだ。

「最後の難関かな」

 ジュンも同じようにした。

 ドアの前に立つと、それは自動で音もなく両側に開いた。

 そこは広いホールになっていた。

 先客が五人もいた。

 身構えるが、襲い掛かってくる気配はなかった。

 すでに来ていた五人は、全員が離れた位置に立っていた。

 皆、孤立してるようだ。

 新入りの二人の方を観察するように眺めているが、話しかける気もなさそうだ。

 後ろでドアが開いた。

 振り向くとまた男が入ってくるところだった。

 二人は部屋の右にそって移動し、全員から距離をとった。

 さらに数人が入ってきて、中の人数は十人になった。


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