第4話
「ここは宇宙船の中なんじゃないかな」
歩きながらジュンが言った。
「宇宙船?」
「星間航行をする船だよ、知らないか?」
「そのくらいは知ってる。でもどうしてそう思う?」
「ずっと低い振動音が聞こえるだろう、何かのモーターが動いている。これは船内に空気を循環させるシステムだよ」
「それくらいは普通のビルでもあるだろう」
「それに、窓がない。普通のビルなら窓くらいあるだろう? 船にしたって、他の乗り物にしたって、窓がないのは変だ。窓がない乗り物は宇宙船か潜水艦くらいのものだ」
「地下の施設って考えもあるぞ、地下なら窓はないだろ」
「なるほど、確かにそうだね。では、地下の施設か、宇宙船かということにしよう。では、今度は僕らはいったいどういう状況にあるのかだ」
「何か考えがあるのか?」
さっき聞いたときはジュンは自分も知らないと答えた。
あれから新しいデータは特に何も得られてはいない。
「ひとつ言える事は、僕らの状況は偶然ではありえないということかな。二人が同じように目覚めて、同じロボットに襲われるなんて、そんな偶然は起こりそうにない」
「ということは?」
「僕らの今の境遇は、誰かが仕組んだものだということだよ」
なるほど、他の誰かの意思というのは考えなかった。
ジュンは自分よりも頭がいいのかもしれない。
だとすれば、ともに行動するのは自分にとってもプラスになるだろう。
彼は、肉体的にはあまり頼りになりそうにないジュンの細い腰を見つめて思った。
「誰が仕組んだのか、そして何のために仕組んだのか、それがわかればな」
腕組みしたジュンがため息をついた。
「想像もつかんな。こんなことをして面白いのか?」
彼の言葉に、数歩前を歩くジュンが振り向いた。
「そりゃ面白いだろうな。他人の苦労を端から見ることがエンターティメントってやつだろ。そうだ、それがあった。娯楽ってやつだ。地下にしろ宇宙にしろ、その誰かはとても退屈してた。何かして楽しみたい。人間狩りはどうかなって考えたのかも」
「あまり楽しくない想像だが、どうやらもっと嫌な相手が現れたようだぞ」
通路の側面のドアが開いて敵が現れた。
今度もロボットだったが、さっきのとはタイプが違っている。
より頑丈そうで強そうなロボットだった。
じわじわ近づいてくる。
狭い廊下では戦いにくい。
「どうする?」
ジュンが聞いた。
「俺が引き寄せるからお前は脇をすり抜けて行け」
「大丈夫?」
「たぶんな、後ろにいろ」
彼はジュンを後ろに下がらせた。
重量感たっぷりの敵が右手を振り上げて迫ってきた。
このロボットは頑丈そうだが、スピードはそれほど速くなさそうだった。
足取りが重々しい。
その一撃を交わすのは容易だった。
「いまだ走れ」
後ろのジュンを送り出す。
ジュンは素早くロボットの脇を抜けていった。
ロボットはそれには目もくれずに、二撃目三撃目を繰り出してきた。
「早く、こっちだ」
ジュンが20メートルほど先のドアの前で叫んでいた。
ドアが開いている。
彼は攻撃をかわしながら反撃する隙を狙っていたが、最初のロボットと違って、このロボットには首筋にコードは見えない。
弱点がなかった。
反撃するのはあきらめて、彼もロボットの横をすり抜けて走った。
後ろからロボットがうなりをあげて追ってくる。
しかしそれほど速くはない。
重量があるから速くは動けないようだった。
ジュンに続いて彼は部屋に入った。
この部屋はずいぶん天井が高い部屋だった。広さもかなりある。
正面の壁には取っ手のようなものがたくさん生えていた。
その壁の上はスペースが開いている。
突起をつかまって上れば、向こうにいけるようだった。
「行くぞ」
彼が言うよりも先にジュンが壁に取り付いた。
彼も突起物につかまって壁を登り始める。
見下ろすと、壁のぼりの機能はないのか、追ってきたロボットが彼の足の下1メートルのところで思案するように行きつ戻りつしていた。
壁のぼりは思ったほど簡単ではなかったが、自分にしてもジュンにしても必死だったからか、何とか落ちることなく上まで登ることができた。
彼らの足の下約20メートルの地点で、まだロボットはうろうろしている。
「何とか危機脱出だね。これは正解だったかな」
額の汗を左手の甲でぬぐったジュンが言った。
「正解?どういう意味だ?」
「これが仕組まれた罠なら、それを抜ける方法も用意されてる気がしてね。最初のロボットは首筋に弱点があったけど、あれには無かっただろ」
「ということは、戦わずに逃げるのが正解だということか」
「まあ、そんな気がしただけだけど」
そういえば最初からそんな感じだった。
最初の部屋を出るのにクイズを解かされたりしたし。
「つまり、ここの罠は俺たちを試してるって事かな」
「それ、ありえるね。これは試験かもしれない」
「命をかけた試験か、合格したらさぞかしすごい褒美が待ってるんだろうな」
身体の疲れも取れたようだ。
二人は再び立ち上がると、手招きしてるかのような出口に向かって注意深く進んでいった。
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