遠足で拾った変なやつ
尾八原ジュージ
遠足で拾った変なやつ
秋の遠足で戸台川原公園に行ったとき、千沢くんが戸台川で変なやつを拾った。それが教室でみんなで飼ってたべろむすめなのだけど、ぶっちゃけそれが何かってことはだれも知らないし、グーグルフォトとかで調べてみたけど今もよくわからない。ただなんとなく「べろむすめ」って感じのものではあった。両手の上にのるくらいの大きさで、カブトムシ用のゼリーとかよく食べていた。
べろむすめって名前をつけたのが誰だったか、ぼくはよく覚えていない。これもあとで調べたんだけど、みんな忘れてしまったらしい。ただ「たぶん七川先生だったんじゃない?」って話になったし、七川先生はビオトープのメダカとかにも勝手に名前をつけてて、いかにもそういうことをしそうだったから、たぶんそれでアタリなんだろう。ただ七川先生は、その後すぐ、遠足が終わる前に戸台川でおぼれて死んでしまったので、もう確かめようがないのだった。
とにかくそうなってみれば、べろむすめは七川先生との最後の思い出の象徴みたいなものでもある。まーそんなわけで、べろむすめはヌルッとぼくらの日常に入り込んできた。教室の後ろのロッカーの上で、前は金魚とか入ってた水槽に川の石とか砂利とか水とか入れて、そこでのんびり暮らしている。コンニャクみたいな肌で、いつもニコニコしてるみたいな顔つきで、動きもモチャモチャしてて、見てるだけでかなり面白い。だから最初の飼育係の丹羽さんが死んじゃった後も、その次の飼育係の居島くんが死んじゃった後も、みんなすぐに手をあげてオレオレ私私って、次の飼育係に立候補したのだ。ぼくも立候補したけど、残念ながらじゃんけんで負けてしまった。その後の飼育係は豊海くんで、あのあと色々あって自力で歩けない状態になったけど、べろむすめが気になるからって毎日学校に通ってきた。授業中もべろむすめをずーっと見てるのでなんだかなーズルいなーという気もしたけど、「家でじっとしているよりは、お友だちといた方がしあわせだと思います」って豊海くんのお母さんが言っていたから、親公認ってことでまぁいいのかなという空気になった。
ただ帰りの会で、東海林さんが急に「べろむすめはおかしい」って言い出したときはびびった。なんでも「べろむすめを拾ってからいくらなんでも人が死にすぎ」って話で、考えてみればそのとおりかもしれない状況だからぼくは急に怖くなった。みんながあーだこーだ言ってる間、べろむすめはいつもどおり水槽の中でモチャモチャ動いて、ニコニコ笑ってるみたいな顔もしていたけど、それもなんか、ぼくたちを油断させる作戦みたいにだんだん思えてきてイヤだった。みんなも急にざわざわし始めた。
そしたら千沢くんが、おれのせいかよーって泣き出したので、もっとびびった。確かに川で見つけたのは千沢くんで、千沢くんがそんなことをしなければみんな死ななかったかもしれない……と思うとなんか、果てしなく大きな岩を目の前に置かれたような気分になって、ぼくはくらくらした。ただもうそんなこと言ったって死んだ人たちは帰ってこないし、千沢くんを責めて解決する問題でもないし、第一「本当にべろむすめのせいで人が死んだのか」なんて証明できないわけだし、どうしたらいいかわからなくなった。
するとクラスで一番頭がいいとうわさの鯉山くんが、「べろむすめを元の川に戻したほうがいいと思う。なんか怖くなってきちゃったし」と言い出して、圧倒的多数(ていうか豊海くん以外の全員)の支持を得た。で、そういうことに決まった。
戸台川に返しにいくのは、新しい担任の能登見先生と東海林さんがやることになった。東海林さんは言い出しっぺだし、車が必要なので、先生に助けてもらわなきゃならなかったのだ。能登見先生は「自分の車に乗せたくない」と言ってしくしく泣いていたけど、みんなにお願いされてとうとう引き受けてくれることになった。
まーそんなわけで、べろむすめはニコニコモチャモチャしながら、なんにも言わずに教室からいなくなった。元の川に戻せたのかどうか、川の近くでひっくり返った能登見先生の車が見つかって、先生も東海林さんも靴しか見つかってないので、よくわからない。でもこないだ鯉山くんが「ヤフオクでべろむすめ見た」って言ってたから、とにかく川に戻すのは失敗したんじゃないかと思う。
遠足で拾った変なやつ 尾八原ジュージ @zi-yon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます