第4話 風邪引いて学校休む?
「もう一度聞くね? こういうの好き?」
耳元でささやく
いつもの教室なのに、この瞬間だけは別の空間にいるかのようだった。
まるで全ての音が消えてしまったかのように、咲宮さんの声だけが聞こえてくる。
すると咲宮さんは俺の答えを待たずイスに座り、再び対面した。
「ね? なんだか二人だけの世界だったと思わない?」
「それはまぁ確かにそうだけど」
「あのね?
咲宮さんはさっきまでのイタズラな雰囲気とは打って変わって、なんだかもじもじした様子で見てくる。
なんだろう、これから告白でもされるんじゃないかと勘違いしてしまいそうだ。そんなわけないと分かっていながらも、やっぱり緊張してしまう。
「何かな?」
「私と一緒にもう一回ロッカーに入ってくれる?」
「よし、帰ろう」
「えぇー!? 蒼野君が冷たいよぉー!」
(この子ちょっと変かもしれない!)
優等生でメインヒロインのイメージはどこへやら。俺の中で咲宮さんのポンコツっぷりが急上昇中だ。
しかし俺はこう思う。ポンコツは個性であり魅力だと。
仮に俺がポンコツだとする。すると周りの人達からはどう見えるだろうか。多分バカにされるのがオチだ。
でも咲宮さんの場合は違う。ほとんどの男は『可愛い』と思うんじゃないだろうか。
女の子からは反感を持たれることもあるかもしれないけど、それは普段からの振る舞いが大きく影響するだろう。
少なくとも咲宮さんはクラスの人気者で、俺が見ている限り、嫌っているクラスメイトはいない。
それに昨日女子更衣室のロッカーに入ってる時、着替え中の女の子達が咲宮さんのことを「みんなで守んなきゃ」と言っていた。なのできっと女の子達からも愛されるに違いない。
だからもし裏表があるとしても、表の顔は優等生で人気者。裏の顔はラブコメ好きのポンコツ(褒め言葉)ということになる。
「そんなお願いするのは多分日本で咲宮さんだけだと思う。どうして俺が『うん』って言うと思ったの?」
「だってラブコメだよ? 密室で二人きりなんだよ?」
「それは分かるけど、ああいうのは作品として見るから面白いわけで、実際に同じことになったらそんな場合じゃないと思うんだ」
「それなら昨日のことはどう思った? 私はすっごくドキドキしたよ」
「昨日のことはまぁ……俺もドキドキした」
「だよね!? ……そうだっ! それだったらラブコメの定番イベントを二人でしてみるのはどうかな?」
「例えば?」
「えっとね、蒼野君が風邪で学校を休んで私が家まで看病に行く、とか?」
「俺がさっき言ったラブコメあるあるだな」
「うん。だからね、蒼野君。風邪引いて学校休む?」
「俺は健康でいたい」
人に病気になれって、この子マジですか。
「冗談だってー、ごめんね。うーん、あとは何があるかなぁー? あっ……!」
咲宮さんが窓の外を見て何やら驚いた表情を見せた。
「窓の外に何かあるの?」
「ううん、何もないよ。でも窓の外では雨が降っていて、傘を持ってなくて困ってる私に蒼野君が自分の傘を渡してくれるのかなって思ったんだ。それで蒼野君はずぶ濡れになりながら走り去るの。でもそれが原因で風邪を引いて学校を休んじゃって。それで私は蒼野君の家まで看病をしに行くの。……ね、それってラブコメみたいじゃない?」
そう言って咲宮さんは微笑む。それはまるで全てを包み込んでくれるかのような、光り輝く優しい笑顔。
「でも今はこれでもかってくらい晴れてるけどね」
「もうー! つまんないー! なんで晴れてるのー!?」
「ごめんごめん! さっきのは俺が冷めすぎだった。お詫びと言ってはなんだけど、どれか一つラブコメ展開に付き合うから」
「ホント!? やったー! 何にしよっかなぁー?」
考え始めた咲宮さんだったけど、今日のところは結論が出ず、後日ということになった。
それから数日後。体育の授業が終わり、道具を片付けることに。当番制になっており、今日は俺が担当する。そして女子の当番は……。
「一緒だねっ、蒼野君!」
咲宮さんだ。
ラブコメ、体育倉庫、なぜかテンションが高い咲宮さん。もはや嫌な予感しかしない……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます