贖罪の儀

 盗賊ザキラと殺し屋ヤーロンに警戒しつつエルクリッド達が案内されたのは、層塔の裏側にある地下への階段であった。意外と近くにあった事には肩透かし気味になれども、捕縛された二人が枷をつけられているとはいえ外にいる事や、その理由もなんとなく見え緊張感が高まる。


 やや広い階段を静かに下りて行くと明かりが見え、辿り着くのは鉄格子で区切る朱色の部屋だ。


「ここは……夢幻牢ですね」


「むげん、ろう?」


「わたくしも少し建造に携わったものです」


 夢幻牢の名を口に出すタラゼドがノヴァに答える形で携わったと述べ、それを聞いてなら話は早いと言ってザキラはヤーロンと共に鉄格子の扉を開けて中へ入り、左右と正面二つの通路へ目配りしてから正面へ向き直り簡単な説明をする。


「詳しい話はそこの眼鏡美丈夫にお聞きなさい、あたくしとヤーロンは不本意ながら案内人だけでなく労働しなきゃならないから」


「運が良ければ……いや、悪ければまた会えるネ」


 それぞれ一言ずつ告げてザキラは正面右の通路へ、ヤーロンは左通路へと進み姿を消した。完全に気配が消えて静寂に包まれてからエルクリッド達の視線がタラゼドに集まり、せん越ながらと小さく咳払いしながら前置きしタラゼドがこの場所とその仕組みについて語り始めた。


「この夢幻牢はまたの名を贖罪の儀と呼ばれる試練の場です。ここの決まりは至って単純で、通路を一つ選び先に行き、部屋につく度に相対する者を制し先へ向かう……相対する者は先程の二人のように罪人達や訓練された魔物で、罪人は減刑を条件にその力を役立てるのが役目なのです」


 罰則とは法に則り罪を償うこと、それを経て再び過ちを犯さぬよう更生しながら社会復帰への標を作ること。

 ヤーロンやザキラが減刑目的としてもその罪の重さは一生の内に償えぬ程なのは明白であり、同時に彼らがリスナーであるのを考慮すると彼らのアセスの報復を防ぐ目的もあるのは推測がつく。


 夢幻牢という場についての説明を終えたタラゼドが次に語るのは、この場所と星彩の儀との関連性とアヤセの意図とについて。


「ここは部屋を進み続け最奥に辿りつけば脱出できますが、恐らくそこにアヤセ様が待っているのでしょう。そして先程のヤーロンやザキラのような者達が待ち受ける事でアヤセ様への挑戦権も自然と得る仕組み……と推測されます」


「なるほど……あれ、でもそうするとあたしら四人で挑むとして、合流したらやり合わなきゃってことですよね?」


「それもアヤセ様の想定でしょうね。この夢幻牢の部屋数は今いるのを除き百八部屋、中には休息できる部屋もありますし強制的に他の部屋へ飛ばされる罠魔法がある部屋等もありますから、運と実力を試されます」


 なるほど、とエルクリッドも一応答えつつも少し頭から煙が上がり、すぐに顔を大きく横に振って気を引き締め直す。

 仲間との同士討ちは試す側からすれば人数を絞るという事になり、そこからアヤセとの戦いは一対一というのも推測がついた。そして挑戦権を得れるだけの相手が待ち受けるとなれば油断できず、同時にほぼ休みなしの連戦で十二星召へ挑む事となるとも。


「カードの使い方、配分、予備も含めていかに余力を残せるかが鍵ってことか……都合よく休める部屋につけるとは思わねぇし、タラゼドさんが関わってんなら部屋も多分単純に隣同士に繋がってるってわけでもないはずだしな」


「シェダさんの言う通りです。ですので進むべき道を迷う、という事はないので問題ないかと」


(意地悪なもん作るぜ……とは本人の前では言えねぇな)


 微笑むタラゼドにシェダは思うものもあれど、気を引き締め前へ進み先に鉄格子を開け先行し右の通路へと進む。


「それじゃ先行くぜ」


「うん、あたしも行こっかな。ノヴァ、待っててね」


「はい! お二人共頑張ってくださいね!」


 ぺこりと頭を下げながらノヴァがエルクリッドとシェダを見送り、エルクリッドは正面右の通路に進む。

 それを見届けつつリオとシリウスの二人はすぐに進まず少し考え、しばらくしてからシリウスが進み左の通路へ。


 リオは動かずノヴァが顔を覗き込むように見上げてくるとちょうど思考を終えたのかタラゼドを呼び、ある問いを投げかける。


「運試しと言いつつも、実際は法則があるのではないですか?」


「そこはご想像にお任せします。製作に携わった者として、試練の手前攻略の糸口についてあまり口外できませんしね」


「……それもそうですね、失礼しました。では私も参ります」


 穏やかに答えるタラゼドの言葉を受けリオも進み、シェダが進む右の通路へと入り姿を消す。静寂に包まれた部屋の中でタラゼドが隅の方に移動するのにノヴァもついていき、共に座り込みながらリオに問われた事について触れた。


「タラゼドさん、さっきのリオさんの質問ってどういう意味ですか?」


「それは秘密です。ですが、手掛かりを言うとすれば……法を司るアヤセ様が掟を破る事をするのか、という事ですかね」


 一瞬考え込み答えが出なかったノヴァが首を傾げ、それを見てタラゼドも微笑みつつも鉄格子の奥の通路へと目を向け、アヤセの試練がいかなるものかを悟り思いを巡らす。


(この試練の真の意図は判断力を問う事……劣勢を強いられる中で冷静に覚悟を決める事ができるか、そして咎人達の精査をしより適切な贖罪をさせるためのもの……)


 夢幻牢の仕組みを知るからこそタラゼドはアヤセの意図を理解し読み取り、さらに先まで見据えつつも思考をやめてノヴァと共に待機の姿勢を取る。仲間達が試練を乗り越えて来ると信じながら、その先のものを見出すと思いながら。


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