変幻自在機巧舞台

 一足先に機巧城へと入ったシェダは、門をくぐり抜けて少し拓けたその場で足を止め息を呑む。

 そびえ立つ城の放つ存在感、そこから聞こえる喧々諤々の声と機巧が動き鳴らすキリキリカラカラという音が響き、そして今目の前の庭にもいくつもの機巧人形が立ち並び、いくつかは破壊され、いくつかと戦う者達の姿がある。


 かつて防衛兵器として運用されていたという歴史や、十二星召イスカが糸で操るように機巧を武器とすることの証明と、その恐ろしさを察知してシェダは改めて巻物を開き自分がする内容と、ここでの制限を確かめ直し気持ちを落ち着かせた。


(使えるアセスは一体のみ、ホームカード使用不可、目標はアゲハの家紋を三つ巻物に記録して脱出……か。家紋はどういうものかはわかってるから良いとして、アセスをどうするか、だな)


 シェダのアセスは全部で五体。その内神獣オハムはまだ一度も使ってない事もあり召喚は今はできない。

 戦闘力を取るならディオンかヤサカになるが、今回の試練がただ力で圧倒するだけでは攻略が難しいとなれば偵察に長けたメリオダスやタンザが有利と言える。


 何よりここは機巧の城、どんな仕掛けがあるかはわからず気を抜けばあっさり外に放り出され、入口からやり直しとなるのも間違いないだろう。巻物を巻いていざとシェダが踏み出そうとすると、ちょうどそこへ門をくぐってシリウスが到着し二人の目があった。


「おっ……謎解き終えたんすね。エルクリッド、はまだかかるだろうけど、リオさんもまだなんすね」

 

「だが謎解きは解ける内容のものを渡してるであろうというのは推測ができた、彼女らもその内来るだろう。それよりも今は……」


「っすね、ちゃちゃっと城に入らねぇといけませんね」


 木と金属で人型に組まれた機巧人形がぐるりと単眼でシェダとシリウスを捉え何体かが向かってくるのが見え、二人も臨戦態勢となりカードを抜く。

 使えるアセスは一体のみ、今後の展開も踏まえシェダが選ぶのは知に優れし静かなる青き猛禽のアセス。


「行くぜメリオダス!」


「聖なる牙をもって敵を討て、ダン」


 召喚と共にビショップオウルのメリオダスが高く飛びながら機巧人形達を捉え、そちらへ引き付けられた機巧人形達が止まったところへ聖犬チャーチグリムのダンが襲いかかり噛み砕いていく。

 機巧人形達の注意がダンへと変わると今度はメリオダスが鋭い爪を閃かせながら襲いかかり、頭を引きちぎりそのまま飛び去る。


 数はそれなりにいるが一体一体は特別強くはない、しかし数が減った側から壁が開いて新たな機巧人形が姿を見せた。同時に撃破した機巧人形らにシェダとシリウスは軽く目配りし、各々の目的のものがないのを確認してからアセスを引き連れ前へと走り出す。


「城でやらなきゃならねぇ事は多分違うから、入ったら別行動っすね」


「いかなる仕掛けが待ち受けているかわからない以上、協力したくてもできるとは言えないだろう。武運を祈る」


 一気に機巧人形を蹴散らし城内へと二人は突入し、即座にキリキリと音が聴こえたのに合わせてアセスと共に散開し飛来する矢を避けた。

 それぞれ課せられた目的は異なる、そして矢を避けたと同時に床が沈み込み別の仕掛けが作動したのを察しシリウスはダンの背に飛び乗り、そのまま廊下を駆け抜け挟み込むようにして襲い来る鉄扉を避けつつシェダと別行動を取る。


 シェダの方もメリオダスを腕へ一度止まらせつつ足元と周囲に目を向けて仕掛けがないかを確認し、その上でメリオダスが持ち前の透視能力で仕掛けの位置を把握するも複雑に絡み合ってる為か、奥の方は重なって隠れる形となっていた。


(ま、透視一つで見破れるなら試練にはならねぇよな。でも全く見えないよりはいい、か)


 木造の建物を照らす魔力灯が揺らめく機巧城はドタドタと走る音やキリキリカラカラと仕掛けが駆動する音が響き合い、その中に紛れるように喜怒哀楽様々な声が混ざっている。

 目的が被ればリスナー同士の衝突もあり得るだろう、そうなった時にいかにして被害を回避するか、アセス一体のみという制約の中でどう立ち回るかは謎解きに続き知恵を試されるとも取れた。

 

 今シェダに見えてる道はいくつかある。上階へ進む階段と三本の廊下、広い敷地の中で目的となる家紋が何処にあるかはわからないし長期戦は間違いない。

 考えている間にキリキリと入って来た時に放たれた機巧の仕掛け弓が再び矢を番えるのを察し、シェダはメリオダスを浮かせ共に道を選び進み出す。止まっていても何も変わらないなら、困難が待ち受けようと進むしかないのだから。

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