華麗なる舞ーMarionetteー

希望を支える為に

 機巧は技術の結晶である。


 単純なものでも見ていて興味を惹かれ、それを発展させてく事で様々に応用もできる。


 相応の技術や独創性があればさらなる姿を見せ、驚天動地とも言えるものを見せつける。


 その美技を扱う一族もまた古来より存在する。彼らは舞台に舞い見るものを魅了する、その裏で身を削る程の修練を重ね技を磨きながら。



ーー


 火の国サラマンカ南部の都市エカンは同国において水源豊かな地域にあり、中央の都市と最南の港町からの中継地でもある。そうした場所故に文化が入り交じり異国情緒ある火の国においても特に独特な発展をし、そして生まれたある技術が伝統として今尚生きている。


 茶屋の外席にて、紫の瓦屋根の木造の街並みを眺めるノヴァの所へカタカタと音を立てながら湯飲み茶碗を持った奇妙な姿勢の人物、否、機巧人形がやってきてぎこちなく茶碗を手渡すとくるりと向きを変えて戻っていく。


「話には聞いてましたが、機巧人形が当たり前にあるんですねぇ……」


「元々は人では作業できない場所での運用や自衛の為の兵器として作られたものが生活に利用されるようになりましたからね。とはいえ相応の技術や管理が必要ですから、他の国で使うのは難しい……というのはご存知ですね」


 お茶を飲みながらタラゼドに頷くノヴァは商人の令嬢として機巧人形については学んでいる。精密な動作や運用が可能なものほど繊細となり、その管理は難しく専門知識や技術が必要で人材も必要で費用対効果の面で率が悪いと。

 結果的に火の国のエカンのみで利用され観光資源の側面もあり、その最たるものを目当てに人が集まる場所でもある。今は星彩の儀とそれに伴う腕の競い合いの為により人も集まり、賑わいもいっそう高まっているというものだ。


 エルクリッドが十二星召イスカに挑む為の挑戦権獲得の為に戦いに赴き、それにシェダとリオが同行しノヴァとタラゼドとは別行動中で、三人が用件を済ませるまでは観光も兼ねつつある人物との待ち合わせをしていた。

 人が行き交う中にタラゼドが目を配っているとその人物が静かに歩む姿が見え、ノヴァも遅れて背筋を伸ばし手を振り迎える姿勢を見せる。


「シリウスさん、お久しぶりです!」


 透き通るような白い肌に一つに束ねた銀髪の髪を揺らしながらノヴァに声をかけられたシリウスは静かに微笑み、その整った容姿にすれ違う婦女子が頬を赤らめながら振り返るのに本人は気づいて苦笑しつつ席につく。


「エルクリッドさんとはお会いしたのですか?」


「ここに来る前に顔を合わせて話を聞いてここに来た。あまり長居をするつもりはなかったが……」


 タラゼドの問いかけに答えつつシリウスは人目を気にしてか頭巾を被るも、今更と思い直し再び素顔を晒す。

 そんな彼を見ながらノヴァは街について早々にエルクリッドがシリウスの存在を察知したこと、そこからせっかくならと会う事を決め探しに行くのも兼ねて戦いに行ってしまい、ひとまず待ち合わせ場所を決めてそれを伝えにシェダとリオが追いかけた事を振り返る。


 エルフの血の繋がりが存在を感知させた、確かな繋がりがある事の証明。ふと、シリウスの何かを気にするような視線をノヴァは感じて席を立ち、タラゼドの方へと振り向く。


「向かいのお土産さん見に行ってていいですか?」


「構いませんよ。ですが遠くに行きすぎないように、です」


 わかりましたと快活に返しながら笑顔でお辞儀をしてノヴァが小走りで茶屋の向かいの土産物店に向かい、それをタラゼドとシリウスの二人が見送りつつ静かに微笑む。


「気を遣わせてしまったようだ、な」


「シリウス殿はエルクリッドさんの事は気になる事でしょうからね。ノヴァも思う事はありますが、まだ話すだけの整理がついてない部分はあるのだと思います」


 そうか、とシリウスがタラゼドに返しながら機巧人形が運んできた湯飲み茶碗を受け取り一口お茶を飲み、ふーっと息を吐き一旦頭の中を整理してから言葉を選ぶようにタラゼドに姪であり、数多を抱えるエルクリッドについて触れる。


「あれから半年程経って……エルクリッドに変わりはないか?」


「火の夢の力は制御できてるようですが、彼女の中にはアスタルテ……別の存在が宿っています。今の所は上手くやれていますし、念の為に緩い封印術もしてますが……」


 半年前の戦いでエルクリッドの中に別の存在、アスタルテが制御装置的に内在してるのはタラゼドも聞いてはいる。緩い封印術をかけてはおいたものの、未知数なのに変わりはない。


 シリウスもまた、再会した時にエルクリッドが変わらない明朗快活さを見せつつも、その身に何かを秘めてるのは悟れた。タラゼドの話を聞いて確信へとなりつつも、支える者がいる事で心が落ち着くのを感じふっと笑う。


「シリウス殿も、星彩の儀に?」


「五曜のリスナーというものになるつもりはないが、エルクリッドの助けになるならと思って参加だけをした。我が妹の分も、やれる事はしてやりたい、からな」


 横顔に哀しみの色を浮かべつつも、シリウスの眼差しは前を見据えているのをタラゼドは感じ取り、静かに微笑みを浮かべた。亡き者の分まで何かをしてやりたい思いは皆同じ、そう思っていると、よく通る声と共に支える存在であるエルクリッドが笑顔で戻ってくるのだった。


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