#この中に殺人鬼の方はいらっしゃいませんか?【1分間小説】

楠本恵士

#この中に殺人鬼の方はいらっしゃいませんか?

 雷鳴が鳴り響き、黒雲から稲妻が縦横に走る激しい風雨の夜──山中のペンションに、休暇を利用してやって来た、六人の男女はパニックにおちいっていた。


 ドアが開いて雨風と一緒に、雨具を着た男性が部屋に入ってくると、部屋の中にいた数名は手に斧やスコップを持って──怯えた表情で外の様子を見てきた仲間を見た。

 ペンションへ通じる山道の状況を見てきた、びしょ濡れの男性が雨具を脱ぎながら言った。

「ダメだ山道が、この雨で崩落した土砂で埋もれていて通行できない……完全に孤立した」


 不安な表情の六人の男女──一人の女性が言った。

「まさか、休暇を利用して来たペンションで、こんなコトが起こるなんて」

 隣の部屋では、七人目の仲間が絞殺されて死んでいた。

 

「一番近いペンションは、山の中を歩いても十分以上かかる……助けを求めても人がいるかどうか」

 固定電話の線は、来た時から寸断されていて使い物にならなかった。

「携帯電話も山の陰で園外だなんて……誰よ文明から離れた、数日間のペンション生活を楽しもうだなんて言ったのは」


 その時……突然、室内の電気が消えて、悲鳴が暗闇の中に響く。

「きゃあぁぁぁ!」

「明かり、明かり!」

 ライトで照らされた、オイルランタンに明かりが灯る。


 少し安堵する一同。

 食糧はペンションに、滞在分しか用意されていない。

 ライトを持って、台所の方を見てきた女性が言った。

「食べ物が減っている……食べ散らかしたような痕跡が」


 今度はトイレの方で男性の悲鳴が聞こえた、一同がトイレに行って見ると腰が抜けた男性がドアが開いた個室トイレを指差して、震える声で言った。

「し、死んでいる⁉」

 そこには、洋式便座に下着を下げて座った状態で、頭部を刃物ナタで割られた女性の死体があった。


 一人の男性が言った。

「リビングにもどろう、一緒にいた方が安全だ」

 残り五人となった者たちは、リビングへともどり不安な夜を過ごす。


 パニックと不安から、情緒不安定になった男性が、いきなり笑いながら叫んだ。

「あはははッ……この中に殺人鬼の方はいらっしゃいませんか……あはははッ」

 稲光が部屋を照らす、カンテラの明かりでガラス窓に照らし出される室内で怯える五人の男女の姿。

 一人の女性がガラス窓に映る、自分たちの姿を指差して言った。


「この中に殺人鬼がいる!」

 その時……叫んだ女性は見た、部屋の一番隅にいた男性の口が何者かの手でふさがれて、背後の暗闇へと引きずり込まれたのを。


     ~おわり~

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#この中に殺人鬼の方はいらっしゃいませんか?【1分間小説】 楠本恵士 @67853-_-

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