第四章「破滅のドラゴン編」
第四章「破滅の帝国編」第1話「予感」
ーあれは、まだあたいが剣の使い方を覚え始めた頃だった。
あたいは、獣人の国「フォークリーフ」で生まれ育った。
村のみんなは仲良くて、ウェアキャットの部族や、ウェアウルフ、ウェアタイガーの部族にもそれぞれ友達がいて、みんな仲良く暮らしてたんだ。中にはエルフも何人かいた。
フォークリーフの山は、昔から沢山の鉱石や宝石が取れるから、ある日クァン・トゥー王国の使いがやってきて、貿易協定ってのを結んだ。
クァン・トゥーからも沢山の商人や物が来て、村は一気に大きくなっていった。人も増えて、学校が出来て、そこであたいは色んなお勉強をして。
でも、チドやスロウたちと剣で戦いごっこしてる時の方が何倍も楽しかった。
そのはずだったんだけど…
でも、本当の戦いは思ってた以上に嫌だった。
クァン・トゥー以外の国はとても強引で、武力であたいたちを脅し、人質を取り、物資を要求してきた。
王様が、兵士を連れてやっつけたけど、すぐに沢山の軍隊が来て、あたいの村や隣の村まで全部焼き払って行った。学校も。
あたいの家族も、チドの家族も、スロウもみんな死んじゃった。もう何もかも無くなっちゃったんだ。
そしたら、クァン・トゥーから「勇者英雄隊」っていう人たちがやってきた。
中でも一番強かったのは、「炎のガラ」だった。
他の国の軍隊が何人来ても、あっという間にやっつけて、追い払った。ガラたちは、しばらくフォークリーフに駐在して、何年かあたいたちの面倒を見てくれた。
チドは体が大きくて速くないから、いじめられてたけど、槍の使い方を教えてもらって、すぐに覚えた。いじめっ子も手を出せなくなった。
あたいは剣が好きだった。ガラは、お前なら双剣の方が向いてるって、あたいに小さな剣を二つくれたんだ。それが、あたいの双剣士としての最初だった。
ガラたちがクァン・トゥーに帰った後も、チドと一緒に朝から晩まで、ずっと腕を磨いた。いつかガラと一緒の隊に入って、悪い国々をやっつけていくんだって。
時が経って、あたいはチドと村から出た。
もうフォークリーフには、あたいたちより強い人間は居なくなってた。旅をしながらも、色んな国で腕試しをした。
そして、やっと辿り着いたクァン・トゥー王国。
さっそく、勇者英雄隊の試験を受けて、あたいとチドは入隊出来た。
とうとうガラに会える!って思ったら、ガラは奥さんを亡くしてて、元気がなかった。
あの頃の強さも無くて、一緒にいくつかの戦場に行ったけど、わざと負けるような戦い方をしたりしてた。
よくアマンと衝突してた。
ガラは人知れず悩んでた。もう、隊を抜けるって。遠くに行って、一人で暮らすって。
でもあたいは、何かガラに恩返しがしたくて、あたいとチドが生まれ育った村の家をガラにあげたんだ。フォークリーフの王様へ手紙を書いて。ガラは喜んでくれた。
そして、あの時、クァン・トゥーでガラに会えて、本当に嬉しかった。あたいもチドも、ガラは父親だったし、兄貴だったし…
…ううん、あたいにはもっと…
「フリン…?さっきからずっと心ここにあらずだぞ」
エルフのドラゴン、エズィールは、背中に乗せているウェアキャットが、いつもの様子でぴょんぴょん飛び跳ねてくると予想していた。
しかし、この旅が始まってこの方、ずっと彼女は遠くを眺めたまま、静かに考え事をしている様であった。
「エズィールよ。さすがのお転婆も、世界を救う旅となれば、それはそれは真剣になるであろうよ」
クァン・トゥー王国魔道士部隊ブラインド・ガーディアン参謀長であったサンボラは、ペガサスに跨りエズィールを諭すように言った。
「ふほほ、本当にそう思うか?」
エズィールは、まるでフリンの心の中を透かして見ているようであった。それはエルフのドラゴンとしての超越的な長寿で得た感覚なのであろうか。彼はサンボラの推測は、的外れであると思っていた。
しかしフリンは、エズィールの声が聞こえてない振りをしているのである。
「ふん、おおかた彼女は、ガラと同行したかったのであろう。貧乏籤を引いたと思うとるよ」
フリンは、初めてその言葉に反応して尻尾を立てた。
「にゃっ!そ、そそ、そんなことないもん!あたいには、あたいの使命を全うするのみ!」
フリンは、エズィールの背中の毛をグイッと引っ張って抵抗した。
「あいたた!これフリン!強く毛を引っ張るな!地面に落ちてしまうぞ!」
エルフのドラゴンは、鱗ではなく、全身を羽毛で覆われている。セレナやアディームのようなドラゴンとはまた異なる種族であり、彼らは炎を吐くが、エズィールは、氷の息を吐き、対象物を一瞬のうちに氷漬けにしてしまうのだ。
それが故に、暑さには耐性が弱く、エルフの国のような寒冷型の気候に適している。
しかし、今彼らが向かっている「神聖ナナウィア帝国」は、日中の気温は30度を超え、亜熱帯に近い気候であった。暑さに弱いのは、フリンも同様であった。
唯一神聖ナナウィア帝国出身であるサンボラだけがこの気候に適していたのである。
「ねぇ、エズィール、そろそろ休憩しない?あたいもう喉がカラカラだよ!」
エズィールは、サンボラに合図を送り、小川の辺りで降りることにした。
フリンは小川の水をゴクゴクと勢いよく飲んでいる。
「さすがに暑くなってきたな。わしもフリンも、暑さに弱いからな。休憩を取らなければ体力が持たないわい」
サンボラは、地図を確認している。
「ふむ、あと半日も飛べば神聖ナナウィア帝国へ着く。…しかしながら、エズィール殿。例えトレント王の書簡を渡したところで、今の帝国では、すんなり受け入れてくれるとは思えなんだ」
エズィールは、エルフの姿に戻った。
「ふむ、それは確かに言えてるな。今帝国は、先代のトゥームーヤ皇帝が亡くなって、皇位継承争いの真っ只中だ。魔王復活とはいえ、他国で起きていることにいちいち関心を持ってくれるのか疑問だな」
サンボラは、腰を下ろし、水筒に小川の水を汲んだ。
「しかし、放っておけば、いずれ帝国といえど、魔王の軍勢にはひとたまりもないはず。それは何としても伝えねばならない…」
フリンは、岩に腰を下ろしながら、空を見上げて言った。
「いっそのこと、さらっと街を散策して、そぉーっと土の神殿に入るしかないじゃん?」
普段はフリンの適当な返事も、今回ばかりは、まんざらではないなとも思えたエズィールであった。
何にせよ、今は一刻一秒を争う事態である。一国のゴタゴタに巻き込まれて、捜索の時間を失えば、元も子もない。魔王の軍勢はまた、前回と同じくらいの数であるのか、はたまたさらに増えるのか、そして、本当に1ヶ月もの猶予はあるのか、まさにどれを取っても確信が得られず、雲を掴むような状況なのである。
ただ、何もせずに時間だけ過ぎ去ってしまえば、人類の存続自体が危うくなってしまう。
「状況を見極め、必要とあらば強行策に打って出るしかないな…」
エズィールは、再び竜の姿になり、フリンを背に乗せ飛び立った。サンボラもペガサスに跨り、後に続いた。
【神聖ナナウィア帝国】
およそ150年前、大陸のほとんどを支配していた「ナナウィア帝国」
肥沃で広大な領土を持ち、農業大国として栄えていたが、逆にそのあまりにも広大な土地が仇となり、地方国家が力をつけ始めた。そして分裂し、次第に現在の領土に落ち着いたのである。
(スルタン)とも呼ばれる皇帝トゥームーヤは、「賢帝(けんてい)」の異名を持ち、巧みな治世で地方国家を束ねた。彼は過去の栄光を取り戻そうと、国の名を「神聖ナナウィア帝国」と改めた。しかし、彼の死後、再び国は混乱に陥ってしまう。
首都は「クァン・シー」ナナウィア語で「西の都」という意味である。「東の都」という意味の「クァン・トゥー」は、かつてクァン・トゥー王国が、ナナウィアの領土であった時の名残である。
首都にある難攻不落の城「スレイヤ城」は、四方を運河で囲まれており、クァン・トゥー王国勇者隊が現れるまでは、誰一人としてこの城を落とす者はいなかったのである。
「トゥームーヤの息子、アラヤはまだ幼い。その母親のハンネ妃が実権を握ろうとしているが、彼女は、激しい性格がゆえ敵が多い。対するトゥームーヤの腹違いの弟ケリーは、サーバス王妃テイラー妃の実兄でもあり、彼もまた野心家である。お互いに一歩も譲らず、現在に至るというわけだ」
空を飛びながら、サンボラは神聖ナナウィア帝国の現状を伝えた。かつてクァン・トゥー王国宰相のアングラがスパイを通じて各国の様々な情報を掴んでいたのである。
「なるほど…では、ますます書簡を渡す必要性が疑われるな…」
エズィールは、益々この旅の困難さを痛感せざるを得なかった。
しかし、背中の上ではフリンがあくびをしながら伸びている。まったく呑気なものである。
「これ、フリンよ。お主はどう考える?神聖ナナウィア帝国に着いたら、まず何をしたら良いか?」
フリンは、ふわぁとあくびをもう一度しながら、サンボラに言った。
「ねぇ、そういえば他の英雄隊の二人は神聖ナナウィア帝国に交渉に行ったんだっけ?まだ難航してるのか?とはいえ、もうクァン・トゥーもあの様子じゃ、交渉どころではにゃいか…いや、ないか」
サンボラは、フリンの意見を聞くと眉をしかめた。
「…実はなフリン、それが心配なのだ。魔王の復活の後、トレント王は彼らを呼び戻そうと使いを何度か送ったのだが、一行に見つからないのだ。失踪…と言うべきか、何かに巻き込まれている可能性があるな…」
フリンはそれを聞いて驚いた。
「にゃっ!何でもっと早くそれを言わないんだ!エズィール!急げ!」
神聖ナナウィア帝国に交渉に向かっている英雄隊は、フルシアンとアントニーである。
フルシアンはハーフエルフの男性で弓の名手であり、アントニーは、人間種の男性ながらエルフ族を凌ぐ実力の魔法使いである。
彼らは、トゥームーヤ皇帝死後、クァン・トゥー王国と神聖ナナウィア帝国との間にある貿易協定を改めて見直す為の交渉に出向いていた。しかしながら、交渉は難航しており、期限を過ぎた今でもいまだに帰って来ないどころか、その足取りすら分からなくなってしまっていたのであった。
エズィールとサンボラは、さらに速度を上げた。
景色は次第に広大な田園地帯に移り変わった。見渡す限り田園である。神聖ナナウィア帝国が
農業大国であるという実態が目の前に広がっている。
「凄いなこれは…全部農地なのか?」
サンボラは頷いた。
「ああ、まさにこの大陸中の農作物がほとんど作られていると言っても過言ではない」
エズィールは、この土地の肥沃さは、普通の力ではない何かを感じ取っていた。
「うむ、この大地の肥沃さこそ、土の民の力なのであろう。この大地から普通ではない生命力を感じるな…」
サンボラはエズィールの言葉に納得した。
「この国で崇められている“土の神”は農業の神とも呼ばれ、大昔は土の民が中心となって祀られていたそうだ。しかし、それは俺がこの国を出る前の話だ。もう20年ほど前になるがな…噂では土の民は、ナナウィアの衰退に伴って散っていったか、もしくは滅ぼされてしまっている可能性がある…」
エズィールは首を振った。
「いや、サンボラよ。この大地のエネルギー、これぞまさしく土の民の力だ。まだ現存しているとわしは確信している!」
サンボラは前方を指差した。
「おっ、ようやく見えてきた。あの運河を辿って行けば、スレイヤ城、即ち神聖ナナウィアの首都クァン・シーだ」
その時である。フリンが突然後ろを振り向き、大声を張り上げた。
「後ろから何か来る!エズィール!サンボラ!気をつけろ!!」
エズィールとサンボラは、後ろを振り向こうとした瞬間、彼らの間を物凄い勢いで大きな物体がすり抜けていった。
その風圧で、エズィールはよろけ、サンボラの乗っているペガサスが驚き暴れ出した。
「くっ!落ち着け!どうどう…」
サンボラは何とかバランスを保ち、その影の方を向いた。
鷲の頭と大きな翼、獅子の体。グリフォンである。それも普通のグリフォンではなく、一回り大きく、漆黒の羽毛に覆われていた。
「ダークグリフォン!まさか、実在するとは!」
エズィールは、驚きの声をあげた。ダークグリフォンとは、神話に登場する怪物であり、グリフォンの王とも言われる。
「あたいからしたら、あんただって実在してんのかって思ってたよ!奴こっちに向かって来るよ!」
フリンはエズィールの背中をパンパンと叩き、こちらに向かってこようとしているダークグリフォンに向かって構えた。
「キェェェエーッ!」
ダークグリフォンは、金切り声をあげて翼を大きく広げ、エズィールたちを威嚇した。
そして、口を大きく開いたその時、炎が口から勢いよく吹き出し、エズィールを襲った。しかし、その瞬間、エズィールは、氷の息を吐いてそれを相殺した。
ブシューッと物凄い勢いで水蒸気が巻き上がる。
そして、その水蒸気の壁の真ん中を突き破るように、漆黒の影が突っ込んできた。
エズィールは、すかさずひらりと身を交わす。フリンは、真っ逆さまになっても平然とエズィールの背中に掴まっている。
「小癪な奴め!エルフのドラゴンを甘く見るなよ!」
エズィールは、ダークグリフォンに噛みつこうとするが、またしてもダークグリフォンは寸前で交わす。凄まじいスピードの攻防である。
伝説の幻獣同士の激突を見守りながら、サンボラはペガサスの上で杖を構え、詠唱を始めた。
そして、カッと目を見開いた時に叫んだ。
「エズィール!距離を取れ!」
エズィールは、サンボラの方を見て、さっと後退した。
「グランディストーン!」
サンボラの杖から特大の紫色に光る光球が放たれ、ダークグリフォンに向けて飛んでいった。
ダークグリフォンは、寸前でそれに気付き、交わそうとしたが、右半身に当たり大爆発を起こした。
ドォーンという爆音が空一面に響き渡る。
黒い羽が辺りに散り、グオオという叫び声と共に、ぐるぐると回りながら落ちていく。
「わお!サンボラ!今の凄いな!」
フリンはサンボラに向けて手を振った。サンボラは杖を振り、ふうとひと息吐いて言った。
「古代魔法の奥義の一つだ。とっておきってやつさ。…だが、寸前で避けられた。まともに当たってはいない!」
エズィールは、落ちたダークグリフォンの方を見ると、慌てたような声を出した。
「まだ奴は生きている!しまった!向こうから馬車が来る!このままだと襲われてしまう!!」
ダークグリフォンが落ちた地点は、ちょうど街道と重なった地点であり、その向こうから商人の馬車が近付いて来ていた。ダークグリフォンは、首をぶるぶると振り、体制を立て直していた。
ふと、ダークグリフォンがその馬車に気付き、走り出した。
「まずい!」
エズィールは、猛スピードで下降するが、ダークグリフォンが馬車に近付く方が速いようだ。
馬車に乗っている商人が、目の前から襲いかかってくるダークグリフォンに気付き、叫び声をあげた。
「うわぁ〜っ!な、何だあのバケモンは!?」
その時、エズィールの鼻っ面にフリンが足を乗せて、踏ん張った。
「フリン!?」
フリンは双剣を構え、ダークグリフォン目掛けて飛び出した。フリンはエズィールのスピードに乗せてさらに速いスピードでダークグリフォンに突っ込んで行った。
ダークグリフォンが、馬車にあと2、3メートルの地点でフリンの刃がダークグリフォンの首元に突き刺さった。
「ギャエェェェエーッ!」
ズーンという音と共に、ダークグリフォンは、頭から地面に倒れ込んだ。商人は慌てて手綱を引っ張り、馬車はダークグリフォンのほんの数センチのところで止まった。
フリンはダークグリフォンの首元から双剣を抜き取り、地面の上に飛び降りた。
「大丈夫だよ。もうこいつは倒した」
フリンは、双剣に付いた血を振り払い鞘に収めた。
商人は、驚いた様子で、フリンを見つめた。
「あわわ…い、一体何だこいつは!?あ、あんた凄いな…ありがとう!」
商人は上を見上げると、エズィールの姿に驚き、再び悲鳴をあげた。しかし、エズィールは、サッとエルフの姿に戻り、商人をなだめた。
「落ち着け!我々は敵ではない!」
サンボラが乗ったペガサスもゆっくりと降りて来た。エズィールとサンボラは、商人に挨拶をし、話しかけた。神聖ナナウィア帝国の現状を尋ねたのである。
「我々は、クァン・トゥーよりやってきた使者だ。この魔物を退治した見返りとして尋ねたい。神聖ナナウィア帝国の現状はどうなっているのかな?まだ皇位継承で揉めてるのか?」
商人は、エズィール、サンボラ、フリンの顔を一人ずつマジマジと見つめながら、汗を拭き答えた。
「あ、いや、皇室は…揉めてるどころの騒ぎじゃねえですぜ旦那。皇后と皇帝の弟が一触即発、最近は弟のケリー公爵の力が強く、実権を握っちまったんだ…」
商人は、段々と緊張がほぐれた様子で、饒舌になってきたようである。
彼の話によると、皇后の過去の不倫がばれ、裁判沙汰になり、不倫相手は斬首、弟のケリーが弱みを握る形で権力を握ったとのこと。しかも、ケリー公爵は、国の反乱分子を一掃するかのように、新たな法律を制定したそうである。
「そら、大変な世の中になったもんだ…隣人からの密告一つで死刑になっちまうんだからな。街中殺気立ってるよ。誰も外に出て来やしねえし、亡命するやつも後を絶たねえのさ。あんたらも悪く言わねえ、クァン・トゥーから何の用だか分からんが、この国に長くいちゃいけねえですぜ」
エズィールは、眉をしかめた。状況は予想以上に深刻である。サンボラも顎を触りながら考え込んでしまった。しかし、商人はフリンの顔を見て、ハッと思いついたような表情をしたのである。
「そうだ!そらエルフの旦那!その魔物!最近商人の馬車を襲うバケモンがいるって聞いたけど、そいつのことか…旦那!その首を掻っ切って、持っていけばいい!」
フリンは首をかしげた。
商人の話によると、帝国はここ最近、魔物の出現率の増加や、強大化により、貿易が深刻な打撃を受けているとのこと。魔物を討伐した証拠を持っていけば、皇室は話を聞いてくれるというのである。
「なるほど…」
「それは一理あるな」
エズィールは、これほどの強大な魔物が人里に近い場所で現れるといった状況は、魔王の復活の影響があると確信した。しかもそれを討伐してみせれば、帝国も味方になれるのではないかと思ったのである。
フリンは、ダークグリフォンの首を切り、商人からもらった麻袋に入れた。
「サンキュー!おっちゃん!いいアイディアだよ!」
フリンはニコッと笑い手を振った。商人は再び手綱を手に取り、馬車を進めた。
そして、彼らはついに神聖ナナウィア帝国の城「スレイヤ城」の門の前に辿り着いたのである。
サンボラは、トレント王から預かっている書簡を門番に見せた。そして、門番は城内に入り、しばらくすると門が開いた。
スレイヤ城の城門は、黒光りした鋼の門であった。厚さはほぼ1メートル程で、一体どれだけの鋼を使ったのかと思われる程の堅牢な門であった。
城門を越えると、城の本館まで長く広い通路が通っていた。両脇には広場があり、兵士たちが訓練をしていたり、休息を取ったりしていた。
「さすがは、難攻不落の城スレイヤだな…これほどの兵力を溜め込んでいるとは…」
サンボラはこの様子を見て感心した。
「まぁ、大したことなかったけどね〜」
フリンは、かつて英雄隊として、この城を落とした張本人であった。尻尾を振りながら上機嫌で歩くウェアキャットを見て、サンボラは、自国の英雄隊の恐ろしさが初めて分かったのであった。
その時、フリンはエズィールの様子が少しおかしいことに気が付いた。
「ん?エズィールどうした?」
エズィールは、眉に皺を寄せながら額に汗を滲ませている。
「いや、何か嫌な予感がするのだ…フリン、サンボラよ。油断するなよ…」
そして、門番の案内で本館の扉の前まで辿り着いた。門番が門に手をかけて扉を開けた時、エズィールがわなわなと震え出したのである。
「くっ!…この邪気…普通ではないぞ…」
フリンは、エズィールを見て表情が強張った。サンボラもその言葉を聞いて、一気に緊張が走った。
「一体何なんだ?どうしたっていうのさエズィール!」
エズィールは、本館の中をキョロキョロと見渡した。そして、ゆっくりと話し出した。
「この城に充満している邪気は、わしがかつてクァン・トゥーの城の中で感じたものに酷似しているのだ…!」
サンボラは、血の気が引いた。
「ま、まさか…そんな…!」
その後エズィールは、驚くべき言葉を口にした。
「魔王が、ここにいる…!」
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