その言葉の向こうに
- ★★★ Excellent!!!
「嘘」の意味を、ここまで優しく、痛いほど真実に描いた物語を他に知りません。
望来の「元気だよ」は、逃避ではなく愛そのものでした。
嘘をつくことで誰かを守り、嘘を信じることで誰かを愛する。
その繋がりが静かに胸を締めつけます。
終盤の手紙の二段構成、明るく振る舞う手紙と、本音を滲ませた最後の一枚が、彼女の生きた証を圧倒的な真実味をもって伝えてきます。
「嘘は必ずしも、嘘じゃない。」
自分なら、彼女のように笑えるだろうか。彼のように受け止められるだろうか。そんな問いがずっと頭から離れませんでした。
けれど、この嘘を受け止められたのは、その裏にある本音が、ちゃんと彼に届いていたからだと思います。
望来は、自分の弱さも恐れも隠さずに言葉にしていた。
本音も弱音もなく、ただ強く笑うだけの嘘は、私には哀しいだけに思えます。
でもその正直さがあったから、彼は初めてあの嘘を受け入れられたのではないか。
読み終えたあとに残るのは哀しみだけではなく、人を想うということのかたちのひとつを、静かに教えられたような感覚でした。