シャドウル
関野あたる
第1話 影の
学校のチャイムが響く。
生徒達はまだまだ話し足りない様子で友達と談笑しながら自分の席につく。朝に弱い担任の教師は欠伸をしながら教室に入ってきてそれを生徒に笑われた。笑われたことなど気にもせず淡々と連絡事項を述べた担任は最後にようやく生徒達に目を向ける。
「今日の五限目に修学旅行の班分けするから、まぁそれまでに適当に自分たちで決めておくように」
ワッと教室中から湧き立つ声が上がった。
「なぁ、修学旅行の班どうする?」
朝のHRが終わり、少し考え事をしていた
「ねぇ!ツバメくんと鷹尾!私たちと一緒の班にならない?」
そこに声をかけてきたのは三人組の女子。一班につき4〜5人にしなくてはならないため、丁度補える人数を探しているようだ。
「えぇっ!ズルいよー。ツバメくん私たちの班においでよ!」
「おい女子!勝手に決めんなよ」
「アンタは誘ってないんだから黙っててー」
「政和、こっち入れって!」
クラスから次々と声がかかる。顔を見合わせたツバメとカズは少し悩みつつも結局最初に声をかけてきた女子達と組むことにした。
「セーフセーフ。早い者勝ちだったわ〜」
「天使の取り合いは目に見えていたもんね」
同じ班になった彼女達はそう言った。
天使、とはツバメの幼い頃からの通称である。
透き通るような白い肌と白い髪に対し漆黒の大きな瞳を持つ人離れした容姿と、穏やかで誰にでも分け隔てなく優しい態度のツバメはよく「天使のようだ」と言われてきた。
当然本人は否定するも年頃の少年少女はそんな簡単には引き下がらないものである。
「おーい、俺はツバメのついでかよ」
不貞腐れたフリをして冗談めかした口調でカズは女子達をつつく。「当たり前でしょ」などと冗談を返されるが、なんだかんだ自分よりもカズの方が女生徒から人気があることをツバメは知っている。中性的で女顔の自分より高身長でノリも良いイケメンの方がモテるのは当然と言えば当然だ。そのやりとりもなんだか微笑ましく見えるというもの。ツバメのフフッと微笑む姿に黄色い声が上がるのは芸能人でも拝んでいる感覚だろう。
班分けの話が出てからツバメは考え事をしていた。その理由はただ一つ、妹のことについてだ。ツバメには4つ下の妹がいて名前はスズメという。艶やかな黒髪と色素の薄い円らな大きい目を持つ、兄の贔屓目抜きにしても大変可愛い小学六年生の女の子だ。
彼らには親がいない。
現在親代わりとなっている成人済みの姉は仕事で忙しく今は海外に出張中だ。そのため家のことはツバメとスズメの二人で毎日こなしている。二泊三日とはいえその間妹を一人にして良いものか。ツバメには難儀な話であった。しかし修学旅行の日取りは刻一刻と迫る。悩んでいる暇はない。ツバメは意を決して担任に相談することにした。カズとの会話をそれとなく逸らして席を外し、行き慣れない職員室の扉を恐る恐るノックする。緊張はしたものの、ツバメの家庭事情を理解している担任教師は真剣に話を聞いてくれた。
修学旅行に行きたい気持ちはある。しかし妹のことが心配だ。今から不参加でも許されるか。
「確かお姉さんが参加しろと言っていたんだったな?」
「はい。修学旅行は学生の内だけの貴重な思い出だから、と……。その時はまだ出張が決まってなくて。姉は仕事が好きな人なんです!僕らのせいで邪魔したくないねって妹とも話してて」
「そうか。まぁ仕方ない」
その時だった。突如職員室の扉がノックも無しに荒々しく開けられたのだ。驚いたツバメと担任教師はもちろん、職員室内にいた全員がその音の方に注目する。
「ツバメ!修学旅行行こう!!」
カズだった。呆気に取られている周囲を置いて「決定!」と宣言するカズは自身のスマホの画面をツバメに向ける。そこにはメッセージが映し出されていて、どうやらカズと彼の母親とのやり取りのようだ。スズメを預かれないかというカズの質問に対して快く問題ないという返信がある。
ツバメは驚いた顔でカズを見上げると、彼は満面の笑みを浮かべてもう一度「修学旅行、行こう!」と力強く言った。
*
「わぁ」
「思ったより人多いな〜」
「え〜?平日じゃないの今日」
お言葉に甘えてカズの母親にスズメを預け、いよいよ待ちに待った修学旅行である。本分はあくまでも勉学であるそれだが、そのように認識している生徒は全国にどれほどいるだろう。歴史資料館などに行っても精々観光地の一部と思っている生徒が大半ではないだろうか。修学旅行のしおりの中でも生徒たちが楽しみにしていた自由時間は自主勉学ではなくただの旅行である。
「こんなに混んでるとは思わなかった!」
「有名な観光地だもんね」
「地元の人の散歩コースでも有名だし、運動しに来る人もいるっていうし」
「平日だから行けるっしょって思ってたけどすごいね〜」
ツバメたちの班は修学旅行地で有名な山に来ていた。標高は500mに満たない程の、パワースポットとして有名で地元民にも愛されている伝統ある霊山らしい。あれやこれやと話をしながら人々で賑わう麓の広場を抜けて山の中腹辺りに差し掛かった頃、女子の一人が「頭痛が痛い」と言い出した。誤った日本語を指摘する者はその場に居らずただ彼女の心配をする。
「え?大丈夫?」
「そんなに高くないとはいえ気圧差とかあるからね。無理しないで降りよう?」
「うう〜ごめん〜」
このままでは良くないと判断しみんなで下山することにした。体調不良の女子を気遣いながら進む歩みは遅く、登るよりも長く感じる道すがらカズは周囲の人が少し騒めいていることに気がつく。
なんだ?と様子を確認するとほとんどの人が山道横の雑木林に目をやっていた。
「みんな先降りてて」
カズはそう言ってグループから離れて人混みを掻き分けていった。人の隙間を縫うように進み、前列と思われるところまで出ると騒ぎの原因は直ぐに目に入った。
雑木林の奥の方で何やら黒いモヤが見えるのだ。
「カズ!離れちゃダメだよ。戻ろう?」
そこに目を奪われていると聞こえてきたのは聞き慣れたツバメの声だ。勝手に班を抜け出したカズを注意しに来たらしい。
「ツバメ、あれ何だと思う?」
「え?黒い…何だろう?蚊柱じゃないし…煙?」
「山火事かな?だとしたらヤバくね?」
カズは形振り構わず雑木林へ飛び込んだ。その長い足を使ってぐんぐん奥へ進んでいく。
「カズ!危ないよ!ダメだって!」
ツバメが叫ぶも「すぐ戻る!」と返事が来ただけでカズの足は止まらない。彼の突拍子もない行動にどうしようかと迷ったツバメだが、放っておくわけにもいかないと若干の罪悪感は覚えながらもカズの後を追った。
比較的に近くにあると思われていた黒いモヤだがその実は随分と山の奥に正体があった。正体、と言ってもただ強大な黒いモヤが周辺の木々を覆い隠しているだけで火の手やモヤの原因らしきものは見当たらない。
「なに…?なにこれ……」
「火事じゃねぇよな?」
「早く引き返そう!何か変だよ!」
ツバメがそう叫んだ瞬間だった。不規則にゆらゆらと揺蕩っていた黒いモヤは唸り声を上げるように大きく動き出し周りの木々を薙ぎ払う。驚いて踵を返そうとした二人にその黒いモヤが襲い掛かろうとした。
「危ない!」
咄嗟のことだった。黒いモヤがカズに触れる直前にツバメはその間に立ちはだかったのである。
「ツバメ!」
カズの絶叫のような声を最後にツバメの意識は黒いモヤに呑まれながら消えた。
*
気がつくと雪原の中にいた。荒々しい吹雪の中、一人ポツンと立ち尽くしている。右を見ても左を見ても真っ白な視界の中、自分の意思ではなく体が動き出していた。どこに向かうかもわからない。何故勝手に体が動くのだろう。そういえば、これだけ吹雪いているというのに自分は全く寒さを感じていなかった。
これは夢だ。ツバメはそう判断する。
降り積もる雪を踏み締めて、どこかに向かっていた体の目の前に一つの大きな建物が見えてきた。まるで中世ヨーロッパのお城のような見慣れない建物が雪と氷に覆われてそこに佇んでいる。どうやら体はそこに向かっているらしい。
城に近付くと門の前に人影のようなものが見えた。誰かいる。声を出そうとするも夢の中では上手くいかない。その人影はどうやら大人の女性のようで、驚いたことに肌が露出した薄いドレスを身に纏っている。
「(寒くないのだろうか?)」
純粋な疑問だが同じく寒さを感じていないツバメが思うのは可笑しな話だ。
ふと女性がこちらに掌を向ける。すると周囲を渦巻いていた吹雪が意思を持ったように襲いかかってきた。寒くないどころか髪の毛が吹雪に揺れる感覚も無く反射的に目を瞑っただけだった。
「(どうしよう、声が出ないし)」
そう思いながら目を開けたツバメは衝撃的な光景を目にする。
先程の女性が死んでいるのだ。
首と体が切り離され、その間からは大量の血が溢れ出て雪を赤く染めていた。自分は横たわるその死体の上に立って見下ろしている。
これは一体?自分がやったのか?
ツバメは理解したくない事実に襲われる。
いやこれは夢だ。現実ではない。しかしなぜ見知らぬ人を殺す夢を?
混乱する中、夢の自分は自分の手に目を向ける。玉を持っている。テニスボールほどの薄い水色をした玉だ。
夢とは総じて支離滅裂なものではあるが、それにしてもこれほど非現実的な夢を見るのは初めてだった。
わけがわからないと目の前の惨状から目を逸らすと、フッと意識が飛ぶ感覚を味わった。
次に目を開けると今度は比較的現実的な場所にいた。
全体的に白い部屋。見慣れない機械。
病院だ。その病室と思われる場所。個室のベッドに誰かが横たわっている。自分は部屋の隅で座り込みそのベッドを見ていた。誰の病室なのか確認してみたい気持ちはあるものの、夢の自分はやはり思い通りには動いてくれない。そこへ医者と看護師と思われる人たちが何人か入ってきた。ベッドを取り囲みあれやこれや会話をしているが自分には聞き取れない。ちらりと看護師が持っているバインダーの中身が見えた。レントゲンの写しと思われるその紙には身体の中心が黒く丸い形に塗りつぶされている。
あれは何だろう?と思っていると、彼らは病室の外の誰かに声をかけた。少ししてその人物が入ってくる。
「(スズメ!!)」
妹だ。まだ幼い彼女は大人たちに囲まれて不安気にしている。医者から何か話をされているようで何度か首を縦に動かしていた。
その最中に看護師がベッドの人物に手を伸ばす。何か処置をするのだろう。そう思っていたが、その動きを見た自分の体がスクッと立ち上がった。
嫌な予感がした。先程一瞬にして死体になった女性の姿がフラッシュバックし、反射的に声を張り上げる。
「やめて!!!」
ハッと目を覚ますと真っ暗な空間にいた。
少々呆然としてしまったが目が覚めたのだと気が付いて飛び起きる。周囲を見てみるも何も視認できないほどの暗闇にいることだけがわかった。少し荒くなる息遣いの中、自分が横になっていた床と思われる地面を手探りする。確かに床のような何かがあるのに何の手触りもない。平らなのか歪なのか、硬いのか柔らかいのかそれすらもわからない。
ツバメは強く目を瞑り頭を抱えて身を縮こませた。自分の身を守るように、心身を襲う恐怖を誤魔化すように。
「(ここは何?僕はどうしちゃったんだろ)」
ゆっくり脳を整理する。修学旅行に来て、みんなと一緒に色んなところを回って、班に分かれて、それから山に登ったけど下山することになって。
黒いモヤ、そして変な恐ろしい夢を見た。
「(カズは?カズは大丈夫かな?)」
目を開け、再び周囲を見回そうとした。
そこで気がつく。自分の足が見えていることに。
「あれ……?」
ジワジワと違和感が膨れ上がる。ツバメは真っ暗で何も見えない空間にいるのだと思っていた。しかし自分の姿はちゃんと見えているのだ。足だけではなく、手も腕も体も。着ている学ランで周囲の黒に溶け込みつつではあるが確かに見えている。
「え?だって、じゃあここって、嘘、え?」
ここは暗闇の中ではないのだ。
「失礼します」
「ぎゃああああああああ!!!」
突如聞こえてきた自分以外の声にツバメはすっかり腰を抜かす。不気味な空間に謎の声。ツバメの体はガタガタと震え出した。
「申し訳ありません。お声がけするタイミングが掴めず……」
ツバメはどこから聞こえてくるのかもわからない声にただ震えながら仕切りに首を横に振る。そんなツバメを見てか、謎の声は落ち込んだような声で「申し訳ありません」ともう一度。
相手のその様子にツバメは少し勇気を出して声をかける。酷く震えていたが聞き取れるくらいではあった。
「誰ですか?」
ツバメの問いかけに相手は殊更に優しい声で答えた。
「貴方の影です」
「影?」
ツバメは復唱することしか出来なかった。何度見回しても何も見えないが、すぐ近くで何かが動いた気配がする。それに体が跳ね上がると再び相手は控えめに声をかけてくる。
「手を、よろしいでしょうか」
「て、手?えっと……」
「ワタクシは今貴方の目の前にいます。そのまま真っ直ぐ伸ばしてくだされば」
目の前にいると聞きツバメは半信半疑ながらよく目を凝らしてみる。それに気がついた時心臓が口から飛び出しそうになった。確かに目の前に何かあるのだ。ひたすらに黒い空間にポツンと白いものが浮いている。目だ。白い目がそこにある。詳しくは限りなく白に近いグレーにヘーゼルが混ぜられたような色ではあるが、色相知識に疎いツバメにはただ白い目としか認識できなかった。
「手を」
催促されたツバメは警戒しながらも言う通りに手をその目に向かって伸ばす。伸ばし切ったところで恐怖に勝てず目を瞑った。そのせいもあってか自分の手に触れてくる何かの感触がよく伝わってくる。然程変なものではなく同じ人間の手の形をしているようで暖かいようなそうでもないような。そっと優しく手を握られたような感覚だった。
「お目覚めになられたので感覚共有を強めます。これでもう少しこちらの姿もわかるかと。目を開けてみてください」
恐る恐る目を開ける。ぼやけた視界では先程までと景色は変わらなかったが、次第に一人の人物が目の前にいることがわかった。といっても相対的な話でどうにもハッキリとは認識できない。
目の前の人物はこの黒い空間に溶け込むように同じく黒かったのだ。黒い髪に黒い服、さらに肌までもが黒く、細かいパーツは見分けることができない。その中で白く浮いている目だけがとにかく印象的だ。
「貴方は?僕の影って、どういうことですか?」
混乱する頭で絞り出したツバメの言葉に相手は頭を左右に振る。
「ワタクシめにそのような言葉遣いは不要です」
タメ口を利いてほしいということだろうか?
「えっと……僕の影ってどういう意味なの?」
ツバメが質問をし直すと今度は首を縦に振る。
「先日出会った影を覚えていますか?」
一瞬ツバメは何のことかわからなかったが、思い当たる節は一つしかない。カズと自分に襲いかかってきたあの黒いモヤだ。
「あれは選定です。便宜上、
「は?」
「ご理解いただけないのも無理はありません。正直、影の珠がここまで本体の力を吸い上げるとはワタクシも想定外で……」
「ちょ、待って。わからない。えっと…」
力?吸い上げる?たま?何もかもが理解できない。
理解できそうなことから整理していきたい。
「僕はどうしてここに…というかここはどこなの?」
「ツバメ様とワタクシの共有意識空間。本来ならばここへは自由にアクセスできるのですが……現在、ツバメ様の肉体は眠りについている状態と言いますか……」
「眠ってる?ここは夢の中ってこと?」
「夢、ではございません。現在見聞きしているものは全て現実です。選定によって力を吸い上げられたツバメ様の肉体は意識を保つことができないため、ここに留まるしかないのです」
「夢じゃないけど、実際の僕は意識が無い……」
ふと夢だと思っていた先程の内容を思い出す。病院と思われる空間と、妹の姿。あの時妹は誰の病室に来ていたというのか。あれがもし夢ではないのだとしたら……。
「僕は、僕はどれだけ眠っているの!?」
「選定が終わってから、今日で三日ほどです」
「大変だ!どうやったら肉体に戻れる!?」
「申し訳ございませんが、現時点では難しいかと」
「それは困る!妹はまだ小学生なんだ!しっかりしてるけど、姉さんも仕事でいないし、一人ぼっちになっちゃうよ!」
「スズメ様は現在ご友人の家でお世話になっているようです」
「友人ってカズだよね?カズは無事なの?」
「はい。選定の際擦り傷を負いましたが大きな問題はありません。あるとすれば……ツバメ様が眠り続けていることに負い目を感じているようです」
「だよね、カズならきっと自分を責める。あの、えっと、君のことはなんて?」
「ワタクシに名前はありません。影とでもお前とでもご自由にお呼びください」
「そうなの?うぅん…とりあえずさ、僕は早く起きてみんなを安心させてあげたいんだけど」
「先程も申し上げましたが。残念ながら現時点では不可能なのです」
彼はそう言うと黒い両手を器を作る形で差し出した。何かと思うと手品のようにシュッと一瞬で玉が現れる。テニスボール程の大きさの淡い水色の玉だ。それを見たツバメは恐ろしい夢がフラッシュバックし思わず「ひっ」と声を上げて後退りする。
「これは現在世界を支える七つの
「そ、それ、夢で出てきた……」
「ああ、もしかしてご覧になっていましたか?ツバメ様の意識が戻ってくるまで先に一つ回収しておきました。氷の陣があまり協力的でなかったため強行手段を取りましたが」
「夢じゃなかったってこと?あの人を、殺したの!?」
「はい」
「そこまでしてなんで!」
「使命だからです」
【使命】。
意味は知っているのに恐ろしく聞き馴染みのない言葉。そういった彼は変わらず優し気な声で、それでいて揺るぎない意志を感じさせる力強い目でツバメを見ていた。
「今、世界は滅びの危機に瀕しています」
彼は静かに跪く。ツバメを国の王様か何かのように、頭を垂れ、敬う態度を崩さない。
「珠を集め力を戻し世界を救うこと。それが私の使命なのです」
「世界を救う?」
なんだか途轍もなく壮大な話になってきた。
ツバメの復唱に彼は跪いたまま「はい」と返事をする。とりあえず頭を上げてほしいというツバメの言葉を聞いてやっと立ち上がったが、そうでもないと延々と同じポーズでいただろう。まるでゲームや漫画の世界に出てくる騎士のような人だ。いや人かどうかもわからないのだが。
「それにツバメ様、珠を集めればツバメ様の意識を身体に戻すこともできます」
「え、本当に!?」
「はい。影の珠がワタクシを作るために吸い上げたツバメ様の生命力を他の珠の力で補えるのです」
ならばもう選択肢は一つしかないじゃないか。
ツバメは頷く。彼の言う珠とやらが集まれば、自分の身体に戻ることができる上に世界を救うことにも繋がるというのなら。
「わかった。世界の危機とかまだピンときてないけれど、地球が滅んじゃうとかそういうことだよね?そういうことなら」
「ああツバメ様、少しスケールを勘違いされているようです。世界とはこの地球の話だけではなく宇宙そのもののことを指しています」
本当に、壮大な話だった。
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