賢者の家
月兎耳
朝の風景
賢者の家。
それは身体や心に障害を持つ子供たちに無償で手厚い医療と看護を施し、社会で生活できるよう訓練する、国営の施設だ。
どんな子どもも国の宝。不自由なく健やかに育むのが大人のつとめである。
すっかり整え終えたベッドに腰かけることも出来ず、立ったままため息をついた。
廊下を急いだ様子の足音が通り過ぎていくのが聞こえた。
今朝は中々薬が届かないので、朝礼に間に合わないかもしれない。教官の意地の悪い声を思い出してまたため息をついた時、控えめなノックが響いた。
「はい。」
返事をすると内開きのドアが開く。現れたのは若い声の女だった。今日の担当は新人らしい。優しい眼差しを感じて背中がむずむずする。
「朝の検診です。腕を出して。」
肘まで袖を捲って差し出すと手早く血圧を計り、採血する。新人らしいのに針を刺すのが上手かった。
採血の間に気分はどうか、痛みはあるかなど幾つか質問に答える。
「口を開けて。」
開いた口に幾つもの錠剤を流し込まれ、ぬるい水で
もう一度口を開いて見せると、確認した医官がよし、と呟いて、頭を撫でる。柔らかい手だった。
「朝礼が始まるわ。急ぎなさいね。」
あなたのせいです、とは言わない。他の職員に聞かれたら大変な事になるから。
廊下は走ってはいけない規則だ。
早歩きで廊下を進みながら、あの人長く持たないだろうな、と思った。
後ろから、同じ様に少年が足早に歩いてくる。
この施設の子供を病院の患者と同じ様に扱っていては、とうてい出世は望めない。
──私たちは兵器だ。
温かい手のひらの感触を振り切って私は足を早めた。
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