19話 重なる想い

──朝日が差し込む教室。



ノートを開きながら、美月は窓の外に視線を投げた。


友達と笑い合いながら登校してくる煌大の姿。


昔からずっと、目が離せなかった。


小学生の頃から、気づけば好きだった。


中学では、断った相手にしつこく迫られたとき、迷わず自分を庇ってくれた。


その瞬間から――煌大だけは特別だった。


言い寄ってくる男子は多かった。


けれど、煌大のように自然に、まっすぐ守ってくれる人はいなかった。


だからこそ、今も変わらず、ずっと想い続けてきた。


窓の外、彼が笑うたびに胸の奥がきゅっと締めつけられる。


手を伸ばせば届く距離なのに、心だけは遠く感じる。



(どうして、あの頃みたいに笑えないんだろう)



穏やかな朝の光が、逆に切なさを際立たせた。


けれど、今の彼の視線の先にいるのは。


同じバスケ部マネージャーの後輩。



(……負けたくないな)



胸に渦巻く感情を抑え、笑みを浮かべて立ち上がった。


窓の外の青空に、淡い決意をにじませながら。


けれど、本当はわかっていた。


想いだけでは届かないこと。


それでも――諦めることだけは、したくなかった。



「今日も頑張ろ」



小さく呟いて、ノートを閉じる。


自分に言い聞かせるように、胸の奥でそっと息を整えた。





──昼休み、中庭。



ベンチに並んでお弁当を広げるのは、もう何度目だろう。


木陰に落ちる光の粒が、春風に揺れている。


美月先輩と食べるお昼は、特別じゃない。


いつもの時間。


でも、今日はどこか違う空気を感じていた。



「そういえば最近、煌大と仲いいね」



箸を止めた美月先輩の言葉に、胸が跳ねた。



「あ……えっと……そう…ですかね?」



戸惑って視線を逸らす。


ドキドキして答えに迷ってしまう。


指先に汗がにじむのを感じながら、お弁当の卵焼きを見つめた。


美月先輩は私をまっすぐ見つめたまま、柔らかく笑った。



「……気づいたら目で追ってる、とかでしょ。わかるよ、その感じ」



その声は優しいのに、どこか遠くを見ているようだった。


沈黙のあいだに、小鳥の鳴き声と風の音だけが流れていく。


その言葉に、胸が痛む。



(……美月先輩も、結城先輩のことを想ってるんだ)



憧れで、大好きで、尊敬している先輩の気持ちが、痛いほど伝わってくる。


笑顔を見せる美月先輩の横顔を見つめながら、私は何も言えなかった。


胸の奥が、熱くて苦しくて――でも、冷静になっていくのを感じていた。


まっすぐで強いその横顔を、きっと私は、少し羨ましがっていた。


風が二人のあいだを抜けていく。


揺れる髪が、陽の光を受けてきらめいた。


あの人を想う気持ちは、きっと同じなのに。


重なりそうで、決して重ならない――そんな距離を、私は静かに受け止めた。


――






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