国語に弱い娘

「萌えるって言葉だいすきなんだよ」

年齢が二回りも下くらいの娘におれは熱弁する。なんかかわいいと近いけど、萌えるの方がニッチな自分だけの趣味で特殊性癖にささる感じ。若い頃メイド喫茶に行ったけど、"萌え萌えきゅん"なんて、あれは素晴らしいよ。ほんとうに萌えた。好きとか美しいとかでもなんでもないただ無償の愛を注げるこの感じ。娘は少しギョッとしながらも意外とすんなり共感していた。


そんな話をしてしまったからだろうか。次の日、娘が学校で両腕を大火傷して帰ってきた。やっぱり書かなきゃ伝わらなかったか。しかも最近覚えた方の漢字を使いたがる不思議な時期だもんな。

これが父親の好きな"燃え"なのか、と言いたげな娘の目を見て、おれははっきり言う。

「ごめんな言い忘れてた。おれ萌え袖だけはなんか萌えないんだよ。」


ひどく落ち込んだ可愛らしい顔の娘とおれの期待に応えようと腫れて焼け爛れたその両腕のギャップに萌えたことは一生忘れないけど。

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