第35話 ガラテア制圧

我はウィッシュを使った。ウィッシュなんかポンよ、ポン。


思ったより失った【可能性】は少なかった。我との相性が良かったのかもしれんし、クエストの力が弱かったのかもしれん、所詮人間がかけた呪いだしのう。


ウィッシュの余波が空気を微かな震えで満たし、魔力の淡い湿気匂いが鼻をくすぐった。


首魁の表情が和らいだ。怒りの形相だと思っていたが、どうも苦痛に耐えていたのか。クエストの呪いが解けたおかげであろう。



「ありがとうございます。私はハングレーと言います。マルコ様やモリー様が従う貴方様に従います。お名前を伺っても?」


「うむ、我の名はアリスという。もうガラテアでの争いは終わっておるのだな?」


「お名前頂戴いたしました。アリス様。我が部隊にかかっていたクエストが解除されているなら終わっているはずです。今はマルコ様やモリー様が鉱夫たちを鎮めている頃合いかと」


「そうか、しばらく休んでおれ。ハノン、案内してやれ。ヘオヅォルはすでに部隊を率いガラテアに入っておるな」



『報告を、モリー』


『はい、先程懲罰部隊の抵抗が止み、それと争っていた鉱夫たちを魅了、支配していってるところです。抵抗はほぼなく、安全になりつつあります』


『そうか、今ヘオヅォルたちを向かわせた。治安維持は彼らに任せるといい』



『マルコよ、変わったことはないか?』


『特には。鉱夫どもが思ったよりやる、ぐらいですか。遊ばせてもらっています』


『そうか、それが終わったなら別任務を与えたいのだが良いか?』


『暴れられるなら喜んで。そうでないなら面倒だなーと思いつつ従います』



『喜ぶといい。お前はその速力を活かし、逃げた第三督戦隊を追い、その隊長を暗殺してまいれ。どうせ領都プロテウス方面へ逃げておるだろう』


『おお! しかし良いのですか? 暗殺など。今まではずっと吸収してきましたのに?』



『全部は吸収しとらんだろ? 逃げたことといい、呪いをおいていったことといい、気に食わんのだ。そんな者は我の配下にいらん。部隊員は好きにしろ。お前の判断に任せる』


『ははっ! 一日で帰ってきます!』


『全員支配し終わってから行けよ』



その後、我はガラテアに入った。


住民たちは第三督戦隊が逃げ出した時から、自宅や店に引きこもっていたようで、被害はほとんどなかったようだ。

ガラテアを占領した我らを歓迎しておる。

この町はほぼ全機能を領主が派遣した部隊、今回は第三督戦隊だな、に依存しておったようで、町長すらおらん。

鉱石を取り扱っていた商人も全員が御用商人で、一緒に逃げてしまったらしい。


ならば全て我らが引き継いでも文句はないよなぁ?


顔見知りが多いらしい、荒くれにしか見えん元鉱夫であるウェレント、モヒカンの元冒険者カーンや一般人にしか見えないウェルナーと一緒にいたが役に立ちそうなところが今までなかったやつ、をこちらの代表としてガラテアに送り込んだ。ウェルナーは鉱石売買に関わったことがあるらしいので補佐として、カーンは護衛役としてウェレントにつけた。


鉱夫どもは皆痩せておった。ウェレントは筋肉達磨であるのにな。聞けばウェレントもここにいるときは痩せていたようだ。とにかく食べ物をろくに与えられていなかったようだ。


我は恩着せがましく、率いてきた部隊の兵糧を与えた。元より【熱狂】していた鉱夫たちは我に平伏したわ。この町でもっとも勢力の強い鉱夫たちを抑えることができたのなら、ここではもう我は何もすることはないな。


早馬をタラッサに出させて、兵糧をもっと持ってこさせることぐらいだな。


ふむ、人間の町の支配などしたことがなかったので、今まで気づかなかったが、念話が通じないのはやっかいだな。グレーターデビルあたりを各町に一人ぐらい人間に化けさせて配置した方が良さそうだな。今回は間に合わんがな。

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