第27話 フィッシュアンドチップス
四人でタラッサの町に入る。
選抜したのは三人、あと一人は我自らである。
一人はマルコ。ゴーティアであり、強力な戦力となる。我の護衛だな。マルコが【支配】している手勢は同じゴーティアであるマリウスに任せさせた。
後の二人は、壊滅させた懲罰部隊の生き残りである自称冒険者のモヒカンとマリウスにも罪が見えなかった一般人だ。
タラッサには行ったことがないらしいので顔が割れていないからだ。
一般人は領外から買われてきたやつらしいし。
我が魔法使い、マルコは戦士、自称冒険者は元々そうだったと探索者、一般人っぽいやつは何を持たせても様にならぬので誰でもそうと名乗ればそうである戦士だ、という設定だ。
元鉱夫の荒くれと共に、二人共【魅了】と【支配】を受けさせたので我の言うことは確実に聞く。
マリウス曰く【熱狂】状態になるとのこと。
町には普通に入れた。
まあ城塞都市でもないから門番とかおらんしな。
しかしなんだか空気が重いな。我は人間の町など初めて入るが、これが普通なのか?
潮風の塩辛い匂いが鼻を突き、空気の重い震えが肌に絡みついてきて、うざい。
マルコにも分からぬだろうし、一般人、名をウェルナーというらしい、に問うてみたが、雰囲気が明らかに落ち込んでいて、人通りが少ないと感じる、らしい。
カーン、モヒカンの自称冒険者、にも聞いてみたが同様の印象だそうな。
ここは商業の町ではなかったのか?
調べようにも人間を見かけないぞ、と思っていたら、自称冒険者のモヒカン、カーンがとりあえず店に入ってみようとのこと。
そういえば何も決めていなかったな。
「そうか、カーン、お前がここのリーダーだ、そういう風に振る舞え、我らはお前のパーティーメンバーにすぎない」
「わ、わかりま……わかった、そうさせてもらう」
一瞬恐縮したが、すぐに対等以上の振る舞いを見せた。……こやつけっこうやるのでは?
「……ここだな、宿兼食事処だ。ここで飯を食いつつ情報収集を行う」
カーンがずかずかと入っていくのでこちらもついていく。四人がけのテーブルに座って、分かっている風に女給と話している。
「皆の注文はすませた。何やら今町では揉め事というか問題が起こっているようだ。詳細は料理が来た後に先程のものが話してくれると思う」
他の客は少ない。一人のものがカウンターに、あと二人組が二組いるだけだ。皆不景気そうな、最初に出会ったネソの村人みたいな顔をしている。
……
「これで注文の品は揃ったと思う。なんか欠けてるのある?」
女給、といっても我と同じぐらいの年齢か、女の子が見た目不審なモヒカン頭に臆することなく話しかけてきた。
「いや、全部ある。ありがとう、これはチップだ」
そういってカーンが銀貨を一枚弾いて渡す。
「わあ、ありがとう。久々だよ、チップとか。今不景気だからね」
「何かあったのか? 皆不景気どころの顔してないし」
テーブルには我が見たことのない食べ物ばかりが並べられておる。
カーンは何かをつまんで食べながら女給と話を続けるようだ。
マルコもよく分からぬのだろう、手を付けておらぬ。自然ウェルナーに注目する。
ウェルナーはカーンがつまんだものと一緒に出された、大きさが違うものを別についてきた小さな皿に入った液体をつけて食した。
そうやって食べるものなのか。
我らも真似して同じようなものをつまんで、液体をつけて食した。
『うまい!』
保存食はハノンがアイテムボックスから出した食べ物と比べてみればあまり美味しくなく、村にいたときはそれなりにうまいものを食せていたが、素材的には保存食とそう変わらぬものが多かった。
しかしこいつはなんだ? 食べたこともないし想像もつかぬ。
「あー、アリスさ……んやマルコさんは初めてですか? これは魚に衣をつけて油で加熱したものですよ。つけるのは調味料が入ったビネガーですね、なかなかに珍しくおいしいです」
ウェルナーが教えてくれた。これが魚か。
人間の食べ物自体が珍しいのだが、沿岸部にしかない料理など知る由もない、とウェルナーや女給は解釈したようだ。
「うちのフィッシュアンドチップスは最高でしょう? 調味ビネガーも長年の研究で作ったものだし、油も衣もいいもの使っているしね」
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