第21話 支配
「指揮官はおらぬか?」
前の場所より遠い場所に陣をはっていた隣領ブヴァードの者たちがいるだろう野営地に三人と一頭で近づいた。
我は他と違って身長が低いのでコンパスがな。
モリーの乗る駱駝に乗らせてもらっておる。
マルコは徒歩だ。
両手剣を背負った全身を覆った金属の鎧を来ておるのに足が早い。
駱駝はゆっくり歩いておるが、あの装備であの早足は違和感があるのう。
人間の姿となっておるときは一緒に歩かんほうがいいかもしれん。
「きたか。私はブヴァード領主エドモンドの名代である。お前たちを連れ帰れとの命令である。大人しく付いて来るがいい。……ん? そこの鎧姿はなんだ? お前は命令にない。引き返すがいい」
名乗り出てきたやつは見覚えがあるな。前に出てきてすぐに逃げた騎士のようだ。
「大人しく付いていくとして、あの村はどうなる?」
「あなたがたほどの力をお持ちの方があのような小さな村に執着されるのか? 気になされなくてもよろしいかと」
「お前たちの知ったことではないわ。……どういう意味だ?」
「もうすぐ存在しなくなる村のことなど気にしても仕方がないということですよ。我が領の懲罰部隊が今頃村をつぶしているはずですから」
『なんのことを言っているのだ? こやつは?』
『我らのように即時の通信手段を持っていないので、すでにその懲罰部隊とやらが殲滅されたことに気づいていないのです』
「お前たちに従うつもりはない。今もお前たちを殲滅しに来たのだ!」
精一杯力を込めて言ったつもりだが、自分でも分かるレベルで迫力がまったくない。
我の発する魔力を感じ取れぬ相手では、今の我はこういうことは不得意だな。
「そのへんな生き物に乗っている女性はそれなりにやるようですが、それでどうにかなりますかね?」
そういって騎士が片手を軽く上げる。
後ろの大きな天幕からジャイアントが現れた。前回も連れてきたやつだろう。
一緒に弩を持った兵士も十人ほど現れた。
「射殺せ」
複数のボルトがこちらに飛んでくる。ボルトの風切り音が耳をかすめ、土煙を上げて地面に突き刺さる。
が、こんなもの我らに通用するわけがなかろう。
弩が見えた瞬間に〈ミサイルプロテクション〉をモリーが発動させておるわ。
マルコに至っては何もせず隙間に当たるものだけ避けて、あとは鎧で全て弾いておる。
普通の、人間が着ておる金属鎧では不可能であろうな。
逆に我とモリーの即時発動の〈マジックミサイル〉がほぼ同時に三十ほど飛んでいき、弩兵をなぎ倒した。ミサイルの爆音が野営地を震わせ、煙が立ち上る。
マルコが両手剣を肩にかついで突撃していく。
先程の騎士にも数発マジックミサイルが飛んでいったはずだが、倒しきれなかったようだ。思ったより強いのか? しかし行動はまたも撤退だ。
『マルコ、そやつは殺すな。我らのマジックミサイルに耐えおった』
『えー? 面倒な。無視しますよ。そちらでなんとかしてください、ジャイアントが来ていますので』
確かにジャイアントもこちらに迫っておる。
マルコと一騎打ちの形になるな。
ジャイアントが木を一本そのまま削って作ったような長めの棍棒をおおきく振りかぶって、マルコを叩き潰そうとした。
がそのまま止まった。
ジャイアントの左鎖骨辺りから右脇下へ斜めに袈裟に斬られて、上半身がずれて落ちた。
もちろん死んでおるし、やったのはマルコだ。
山斬りとかいう技らしい。
魔力をのせた斬撃を放出し、あのように大きなものでも斬ってしまう技のようだな。
似たようなことを勇者の眷属がやっておったわ。
まだ後ろにいて残っていた敵兵士の士気はこれで一気に失われた。
背中を見せて逃げよるわ。
それを丹念に一人ずつマルコがつぶしていきおる。
逃げられぬと悟った兵士も抵抗しようとするが、一切抵抗できておらぬな。
数人つぶしたところで、マルコに言うように念話でささやいた。
「逃げれば殺す。我らの軍門に降るのであれば生かす。そうでないならやはり殺す。降るのであれば動くな!」
マルコの大声はいいな。心臓を掴まれたかのような反応を敵兵が見せおった。
ほぼ全員がその場にしゃがみこんで降った。
「動くなと言っている! 生を全うしたいのであれば動くな!」
今のマルコはやつらには悪鬼羅刹にでも見えているだろうな。逃げようとしたものは全員二つになるように斬り伏せられた。
逆に動かなかったものは完全に心を折られたようだ。
先程の騎士も膝を折って、降伏しておる。
これで完全にマルコが場を支配したな。
敵兵どもはモリーで魅了するよりもマルコに【支配】させた方が良さそうだ。
そのようにささやく。
マルコは自分の駒を得られるので喜んだ。今のマルコは我の眷属であるのでマルコの駒にも希望を与えれば我の糧となる。
マルコとモリーに念話でささやいて、先程の騎士だけは【支配】し、かつモリーに【魅了】させた。こやつは駒を統率するものにするとしよう。
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