二度目の魔王は希望を与える

なぞまる

第1話 復活の魔王

長き封印より、ようやく放たれたと思ったら、ここはどこだ?


我は魔王なり、【絶望】の魔王アルデリウスなり。我が配下の者はおらぬか?


ふむ、誰もおらぬようだ。ならば我が自ら動くしかなかろう。


それにしても今の我が姿、人間の少女にしか見えぬな。小さく儚い存在だ。


我の残り四本の腕と毒尻尾、小さいが強烈な魔風を起こすことが出来る翼、巨大な魔力を操る角、全てを引き裂く強靭なかぎ爪、各種様々な効果を発揮させることが出来た魔眼や吐息、ほぼ全てを、魔力以外を失ったか。


まあ良い。あれば便利だがなくともなんとでもなろう。人間がその身に宿すことすら出来ぬはずの強大な魔力さえ残っているなら、その魔力の操り方を覚えていさえすれば。


「〈ライト〉」


光源を生み、周辺を明るくした。


本当になにもない空間だ。四方天井床、全て魔封石に覆われておるな。


しかし劣化が激しい。


一部は風化し空気穴を作っておるようだ。


誰も我を封じたこの封印地を管理維持しておらぬということだな。


よくよく見れば蛇などの爬虫類や小型の哺乳類と思われる死骸があたりを転がっておるな。


こやつらが穴をくぐり、この空間に入ってきたはいいが、出ることができずに餓死でもしたか。


死骸が風化しているものもあれば、まだ蘇らせることも可能なものもいるな。


まあ蛇やネズミを蘇らせてもなんの役にも立たぬし、しないけどな。


しかし代わりに少々魔力がもったいない気もするが、〈アニメイテッドデッド〉でゾンビとして起こすか。


こちらであれば我の言うことを聞くようになるしな。


「〈アニメイテッドデッド〉」


小さな蛇が二匹、ネズミ、ラットだな、が三匹、起き上がった。サラサラと蛇の鱗が床を擦る音が、静かに響く。


蛇もラットも一体はスケルトンだ。カタカタと骨が鳴り、動き出す。


ラットのあと一体はミイラ化したものだ。


残りの蛇とラットは、生きていた頃の姿を残している。


まあお前たちはこの少女の姿となった我の最初の眷属だ。栄誉に思え。


……ただのゾンビだし、もともともそんな知性はないがな。


ともかく役立ってみせよ。


もっと大きな穴を見つけるのだ。


ゾンビ共に探索を命じたあとは、我は座り、瞑想に入る。ラットがキーキーと小さな爪音を立てて壁際を走る中、静寂が戻る。


ふむ? 我が【絶望】の属性が変わっておるな。封印の影響か? 属性が【希望】に変異しておるな。裏返った感じか。まあなんとでもなろう。


それよりもこの貧弱な身体のほうが気になるな。


厳密には我の体は人間の女の体ではないようだ。


大部分は見てくれの通りそのまま人間だが、心臓と魔核が融合しておるようだ。


魔核から放たれる魔力の一部は血液にもなり、強大な魔力による崩壊から体を維持しておるようだ。


魔核からは直接頭部へも魔力が流れており、それは額に出来た石に流れ込んでおる。


この石は魔石だな。


今の我の本体、というわけだ。


体内でなく露出しているとはなんたることか。


人間の体内に魔石が宿ることはないと知っていたが、我とて例外とはなれなかったということか。


しかし弱点がさらけ出しているマイナスもあればプラスもある。


人間の身で使うには厳しいだろう大魔法をここから直接放つことが出来るだろう。


……


スケルトンスネークが穴を見つけたようだ。生きている時は発見できず死に、死後に見つけるとは皮肉なものよな。


お前の体は我が存分に使ってやろう。


スケルトンスネークはこの魔封石の囲みから出た。皆その穴を通れそうだ。


残りのものも外へ出す。


周りを偵察するのだ。


我はゾンビどもの目を通じて、外を見させてもらう。


元の視力は関係ない。魔力の目だからな。


周りは森でここは森の中に立つ正四角錐型の遺跡、といったもののようだな。


正方体の魔封石には魔封の効果を出すために文様が刻まれており、それを積み重ねて正四角錐型の封印地を作っておったようだ。


その正四角錐型の封印地は蔦に覆われていた。


さて、周辺のことは分かった。


どうするべきか。


都合のいいことに槍を持った瀕死のコボルドが一匹、正四角錐型の封印地へ近づいてきておるな。


よし、穴の前に追い込むのだ。ゾンビどもよ。ラットが素早く影から飛び出し、シャーッと蛇の威嚇音がコボルドを怯えさせる。


コボルドは息も絶え絶えだったが、ゾンビとなっている毒蛇を見かけてあとずさった。


よし、穴の目の前だな。


スケルトンスネークよ。


魔毒をコボルドに与えよ!


穴の近くで伏せていたスケルトンスネークが生前に持っていただろう毒よりはるかに強力な魔毒をコボルドに不意に噛み付いて注入する。グゥッとコボルドのうめきが漏れる。


元々瀕死だったコボルドは魔毒を受け、一発で死んだ。


が、その前に足に噛んだスケルトンスネークはコボルドの槍の石突で破壊されてしまった。


むう、復活後初の殉職か。


小さきものだったゆえ致し方ないが、操るためにリンクしていたのでフィードバックがきてしまい、多少のダメージを負ってしまった。


具体的に言うと右足を軽く怪我してしまった。まあ仕方なかろう。すぐ治るだろうしな。


穴の近くで立ったまま死んだコボルドにも〈アニメイテッドデッド〉をかける。


「〈アニメイテッドデッド〉」


先程死したばかりの肉体が再起動する。ビクンと体が震え、赤い目が開く。


体のかたちが近いから操りやすいわ。


持っていた槍を穴に通そうとする。


若干引っかかったものの無理やり突き刺す。


槍の刃がこちらまで届いた。


石突は向こう側のようだ。


よし、大変好都合。他のテレポート系の魔法は使えなかったが、この限定的なそれならおそらくこの魔封石に囲まれたこの場所でも使えるだろう。


我はそれを唱えた。瞬間我は正四角錐型の封印地の外、石突をつまみ持った形で外に出た。


位置入れ替えの魔法だ。


だいたいトラップとして仕掛ける魔法を、まさか自らにかけることになるとはなぁ。


つい先程眷属入りしたコボルドには悪いが、貴様のお陰で我が封印から逃れることが出来たことを光栄に思いつつ、その封印地の中で朽ち果てるが良い。


わざわざ〈アニメイテッドデッド〉の魔法は解いてやろう。

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