第24話--冬の静寂と胸の奥の灯--

冬休みも、もうすぐ終わる。

窓の外はうっすらと雪が積もり、街は白く染まっていた。

部屋のストーブの音だけが、静かな空気の中に小さく響いている。


ノートを広げてはみたものの、

ページの上には何も書けなかった。

目の前の文字がぼやけて見える。


「……集中できないな」


小さく呟く。

その瞬間、ペンダントの光がカーテンの隙間から差す日差しを受けてきらりと揺れた。


それだけで、胸が少し熱くなる。

あの日――屋上で、凛がチョーカーを外して、

代わりにこのスフェーンのネックレスをかけてくれたときのことを思い出す。


あのとき、何かが変わった。

世界の色が少しだけ柔らかくなって、

自分の中に“誰かを思う”感情が確かに生まれた。



けれど最近、

その“誰か”に会えないまま、

時間だけが過ぎていく。


スマホを手に取って、

何度も連絡しようとして、結局やめてしまう。


理由は分かっている。

凛のことを考えると、胸の奥が苦しくなる。

それがどんな感情なのか、自分でもまだ整理がつかない。



午前中、コンビニまで歩いていった。

冬の空気は刺すように冷たいのに、

ネックレスの部分だけが温かい。


信号待ちのとき、ふと向かい側の通りで見覚えのある後ろ姿が見えた。

黒いコートに、長い髪。

首元には――チョーカーのような黒い帯。


「……凛、ちゃん?」


思わず声を出したが、

車が通り過ぎたときにはもう、その姿は見えなかった。


本当に彼女だったのか、わからない。

でも、胸の奥がざわついた。

もし凛だったなら――どうして声をかけられなかったんだろう。



帰り道、空は薄暗くなっていく。

街の灯りが点り始めたころ、

ポケットの中のスマホが震えた。


画面には“黒田 澪”の名前。


『ねぇ、凛ちゃんって最近元気?』


一瞬、手が止まった。

なぜ澪さんが――と思ったが、

すぐに「1年のとき同じクラスだった」ことを思い出す。


返信を打つ手が震える。


『たぶん、元気だと思う。会ってないけど……』


そう送ってから、

胸の奥で何かが小さく揺れた。


“会ってないけど”

その言葉の重みが、自分の心の奥に沈んでいく。


夜。

窓の外の雪がまた降り始めた。

白い結晶が街灯の光を受けて、ゆっくりと落ちていく。


彩はペンダントを握りしめながら、

ぽつりと呟いた。


「会いたい……」


その言葉が、

どこか遠くで同じ気持ちを抱えている人に届くような気がした。

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