第13話--二人きりの冬の夜--
リビングには暖かい光が広がり、外の冷たい冬の空気とはまるで別世界のようだった。
彩はカップに残ったレモンティーの香りをかぎながら、そっと手を握り直す。
ネックレスの虹色の光が指先で揺れ、微かに温かい。
「今日は、ちょっと聞きたいことがあって……」
凛が静かに声をかける。冷たくもなく、柔らかくもない、その真剣さだけが響いていた。
彩は胸の奥がざわつき、少し頷いた。
「聞きたいことって……?」
凛はカップを手に取り、視線を少し落とす。
その目はじっと彩を見つめているが、表情はいつも通りの無表情のままだ。
「最近、ぼーっとしてることが多いし、首元をよく触るよね。
それに、友達と少し距離があるようにも見える」
彩は息を飲む。
凛が、こんなにも細かく自分の様子を見ていたことに驚きと、胸の高鳴りが混ざった。
「……そうかな。あまり気にしてなかったけど」
「気にしてないわけじゃないでしょ」
凛の声は淡々としているが、言葉の奥に真剣さが感じられる。
彩はネックレスをそっと触りながら考え込む。
秋の屋上での約束、冬に再会したときのこと、そしてこの家に招かれたこと
――そのすべてが頭の中で巡る。
凛がここまで自分のことを見てくれていたと知り、胸がじんわり熱くなる。
凛はソファの向こう側に座り、カップを手にゆっくりティーを口に含む。
彩はその仕草を見つめながら、自然と肩の力が抜けていく。
冷たい表情の奥に、少しだけ人となりが垣間見える気がした。
「彩……」
呼ばれて彩は顔を上げる。
凛は少しだけ手を差し出した。
「ここにいて、さっきの話を詳しく聞かせてほしい」
その一言に彩の胸は大きく高鳴った。
無理に笑おうとする必要もなく、自然と口元に微かな笑みが浮かぶ。
「……うん」
彩は手を伸ばし、凛の手を軽く握る。
リビングの暖かさと二人だけの空気が、肌に染み込むようだった。
しばらく二人は言葉を交わさず、窓の外の冬の景色を眺める。
街灯がぽつりぽつりと灯り、遠くに見える家々の明かりが静かに瞬いていた。
彩はネックレスの光を意識しながら、凛の手の温もりを心に留める。
「凛、ちょっと母親に友達の家に居るって伝えていいかな、
連絡なしにこの時間帯でどこかにいる訳にもいかないからさ。」
凛は私の顔を少し覗き、黙ったままうなずいた。
やがて凛が口を開く。
「彩、迷惑じゃなかった?」
静かな声に彩は正直に答える。
「迷惑なんて……全然」
胸の奥にあった不安が少しずつ溶け、手に握った温もりがより実感として伝わる。
「ありがとう……」
言葉は少ないけれど、その目には確かな思いが宿っている。
外はすっかり冬の夜になり、冷たい空気が窓の外を覆っている。
リビングの暖かさの中で、彩は初めて凛の家で二人きりの時間を過ごす重みを
感じていた。
ネックレスの虹色の光、手を握る温もり、そして凛が自分を見つめる視線。
すべてが彩の心を揺さぶり、胸の奥に小さなざわめきを生む。
窓の外の街の灯りと、リビングの温かさ。
その間に、二人だけの世界が静かに形を作りつつあった。
彩は微かに息を吐き、ネックレスの光を指で撫でる。
そして、凛の手にそっと寄り添った。
――この夜が、少しでも長く続けばいいのに。
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