「放課後の秘密は一週間だけ」

雨森 透

ーープロローグーー「二人の出会い」



――ここは、生徒立ち入り禁止の屋上。

好奇心に勝てず、私はそっとドアを押した。


風が吹き抜ける屋上で、一人の女の子が本を読んでいる。


「……え、誰?」

思わず声が出た。


顔を上げたのは、綾瀬 凛。

クラスではあまり話したことのない子だ。

友達の前では笑うのに、私の前では冷たく、ただのクラスメイトに見えた。


「……あなた、どうしてここに?」

凛は落ち着いた声で言った。


「鍵が、開いてたから……」

私はごまかすように答えた。


「好奇心……ね」

凛は本を閉じて、わずかに眉を寄せる。

「じゃあ、秘密を一つ共有することになる」


胸がざわついた。秘密――ただそれだけなのに、特別な響きに思えた。


翌日も、次の日も、放課後になると私は自然と屋上へ足を運んでいた。

凛はいつもそこにいて、本を読んでいたり、遠くを見ていたり。

短い会話や視線のやり取りだけで、距離の近さを感じる。

友達の前の笑顔とは違う、冷たいけれど自分だけに向けられた視線。

胸が締め付けられるのに、離れられなかった。


そしてある日――誰もいない放課後の教室。夕陽で赤く染まる中、凛は言った。


「彩、この首飾り……一週間だけ、つけてみない?」


黒いチョーカーが差し出される。

飾り気はないのに、どこか息苦しい光沢。


「どうして私に?」

声は震えていた。


「秘密を共有したいだけ。友情でも恋でもない、もっと特別な関係」

凛の言葉は冷たく、それでも確かに私だけに向けられているものだ。


指先が首に触れ、カチリと留め金が閉じる音が心臓の鼓動より大きく響く。


――外せば裏切り。つければ依存。


その時、まだ知らなかった。

屋上で始まった一週間の秘密が、卒業の日に凛を「同棲するか」「二度と会わない決別か」の選択に追い込むことになるとは。


放課後の秘密は、一週間では終わらなかった――。

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