第24話 三人の特別な関係性の始まり
俺たちの、いびつで、しかし、何よりも確かな共同生活が、その日から始まった。詩織は、実家に「友人とルームシェアを始める」という、半分本当で、半分嘘の説明をし、最低限の荷物だけを持って、俺のこの六畳一間の城へと移り住んできた。瑠璃もまた、同じように、巧みな嘘を並べ立てて、親を説得したらしい。俺の、殺風景で、男一人分の生活感しかなかった部屋は、あっという間に、二人の少女の、甘い香りと、柔らかな色彩に満たされていった。
クローゼットには、俺のくたびれたシャツの隣に、彼女たちの、可愛らしいデザインの服が、仲良く並んで掛けられている。洗面台には、俺の使っている安物の歯磨き粉の隣に、化粧水や乳液といった、俺には縁のなかった瓶が、いくつも、ちょこんと置かれている。そして、玄関には、俺の履き古したスニーカーの隣に、二つの、小さな、女性用のパンプスが、まるで、ここに住むのが当たり前であるかのように、自然に、並べられていた。
その光景の一つ一つが、俺に、ここはもはや、俺一人の孤独な場所ではないのだという事実を、何よりも雄弁に、そして、温かく、突きつけてきた。
俺たちの新しい日常は、驚くほど、穏やかで、そして、幸福に満ちていた。朝、俺は、キッチンで朝食の準備をする、詩織の、健気な後ろ姿と、味噌汁の香りで目を覚ます。食卓では、まだ眠そうに目をこする瑠璃が、俺の隣に座り、「あーん」と、甘えた声で、おかずをねだってきたりもする。
大学へは、もちろん、三人で一緒に通った。講義が終われば、一緒にスーパーへ寄り、今夜の献立を、三人で、ああでもない、こうでもないと、笑い合いながら考える。その姿は、傍から見れば、どこにでもいる、ごく普通の、仲の良い大学生のグループにしか見えなかっただろう。だが、俺たちだけが知っている。俺たちの間には、決して誰にも明かすことのできない、甘美で、そして、背徳的な「宝物」が、隠されていることを。
そして、夜。俺たちの、本当の時間が始まる。狭い部屋の中で、俺たちは、一日の出来事を報告し合い、他愛もないことで笑い合う。そして、眠くなると、まるでそれが、この世界の、唯一のルールであるかのように、三つの布団を一つに繋げた、大きな寝床へと、一緒に潜り込むのだ。
毎晩、激しく交わるわけではない。ただ、互いの裸体を、肌と肌とで、隙間なく触れ合わせ、互いの体温と、心臓の鼓動を感じながら、静かに眠りにつく夜もある。俺は、右に詩織を、左に瑠璃を抱きしめながら、その温もりの中で、目を閉じる。その瞬間、俺は、この上ないほどの、安堵感と、満足感に、包まれるのだ。
俺たちは、もはや、童貞と処女という、社会が作った、ちっぽけな制約に縛られていた、あの頃の俺たちではない。互いの身体の全てを、そして、心の全てを、完全に受け入れ合った、一つの、特別な「番(つがい)」となったのだ。俺は「雄」として、この二人を、生涯、守り、愛し抜く。彼女たちは「雌」として、俺に、その全てを、捧げてくれる。その、原始的で、しかし、何よりも確かな絆が、俺たちの、新しい世界の、中心にあった。
今朝もまた、俺は、窓から差し込む、柔らかな朝日の光で、目を覚ました。腕の中には、昨夜と同じように、二人の、愛おしい寝顔がある。俺は、彼女たちを起こさないように、そっと、その額に、一つずつ、優しいキスを落とした。
朝日が、部屋の中を、黄金色に染め上げていく。その光の中で、俺と、詩織と、瑠璃は、まるで、川の字のように、ぴったりと、身を寄せ合って眠っている。その光景は、一枚の、幸せな絵画のようだった。
そうだ、これが、俺が、ずっと、心のどこかで、探し求めていたものなのだ。孤独だった俺が、初めて手に入れた、温かい、俺だけの「家族」。俺は、腕の中の、二つの温もりを、もう一度、強く、そして、優しく、抱きしめた。俺たちの、特別な関係は、今、始まったばかりだ。この、小さな部屋の中で、俺たちは、これからも、ずっと、三人で、生きていく。
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