第23話 共同生活の提案と新たな関係性の萌芽


 あの日を境に、俺の六畳一間のワンルームは、もはや俺一人の城ではなくなっていた。講義が終わると、俺たちは示し合わせたように、一緒にスーパーへ寄り、三人分の食材を買い込む。そして、この狭い部屋に戻り、詩織が中心となって手際よく夕食の準備をし、瑠璃がその手伝いをしながら、俺に今日の出来事を報告する。俺は、そんな二人の姿を、ベッドの上から、王様のように、ただ、満足げに眺めている。


 食事と後片付けが終わると、俺たちは、まるでそれが当たり前のルールであるかのように、一つの大きな寝床と化した布団の上で、互いの身体を寄せ合った。セックスをすることもあれば、ただ、他愛もない話をしたり、同じ映画を観たりしながら、静かに夜が更けていくのを待つこともある。それは、いびつな形ではあるが、間違いなく、一つの「家族」の姿だった。


 その日も、俺たちは、いつものように、三人で身を寄せ合いながら、レンタルしてきた古い恋愛映画を観ていた。画面の中では、主人公の男女が、すれ違いや障害を乗り越え、ハッピーエンドへと向かっている。以前の俺ならば、そんなご都合主義的な展開に、冷めた視線を送っていたはずだ。だが、今の俺は、その光景を、どこか穏やかな気持ちで、受け入れることができていた。俺の腕の中には、この世界の、どんなヒロインよりも、愛おしく、そして、かけがえのない存在が、二人もいるのだから。


 映画が終わり、エンドロールが静かに流れ始めた時だった。それまで、俺の胸に、こてん、と頭を預けていた詩織が、ゆっくりと、その身体を起こした。そして、隣でうとうとしていた瑠璃の肩を、優しく揺する。瑠璃が、ん、と眠そうな声を上げると、詩織は、彼女と、そして、俺の顔を、順番に、じっと見つめた。その瞳には、いつになく、真剣な光が宿っていた。


 「……陽介くん。瑠璃ちゃん」


 改まった、その声色。俺と瑠璃は、自然と、彼女の次の言葉を、固唾を呑んで待っていた。


 「あのね……。私、我儘を言っているのは、分かってるんだけど……。もう少しだけ……ううん、ずっと、陽介くんの、おそばに、いたいです」


 その言葉は、静かな、しかし、確かな重みを持って、部屋の空気を震わせた。それは、紛れもなく、共同生活の提案だった。彼女は、もはや、大学が終わった後に、門限を気にしながら、自分の家に帰るという、中途半端な関係には、耐えられなくなっていたのだ。


 俺が、そのあまりにも大胆な提案に、言葉を失っていると、隣で聞いていた瑠璃が、ふわりと、悪戯っぽく微笑んだ。


 「……詩織、ずるい。それ、私が先に言おうと思ってたのに」


 そして、彼女は、俺の身体に、さらに強く、その柔らかな胸を押し付けながら、彼女自身の、あまりにも率直で、淫らな本音を、告げた。


 「私も、同じ気持ちです、陽介センパイ。私も、陽介センパイと、ずっと一緒にいたいです」


 その言葉を聞いて、俺の心臓が、大きく、そして、力強く、脈打った。驚きと、喜びと、そして、どうしようもないほどの愛おしさが、一気に、俺の胸に込み上げてくる。俺は、この二人の少女から、これ以上ないほどの、絶対的な信頼と、愛情を、向けられている。その事実が、俺の心を、温かい光で満たしていった。


 だが、瑠璃の言葉は、それだけでは終わらなかった。


 「だって、家に帰っちゃったら、陽介センパイに、ヤってもらえないじゃないですか。私は、陽介センパイに、毎日、毎日、めちゃくちゃにされたいんです。あなたの『雌』として、あなたの精液を、お腹いっぱい、毎日、飲みたいんです……❤️」


 その、あまりにも淫乱で、健気な懇願。続いて、詩織もまた、頬を真っ赤に染めながら、しかし、決して目を逸らさずに、彼女自身の、純粋な願いを、言葉にした。


 「私も……陽介センパイに、毎日、奉仕がしたいです。朝、あなたのためにご飯を作って、あなたの服を洗濯して、そして、夜は、あなたが満足するまで、私の身体の全てを、あなたに、捧げたいんです……」


 奉仕を望む詩織。被虐を望む瑠璃。二人の、全く異なる形の、しかし、どちらも、俺という存在に対する、絶対的な献身。その言葉を前にして、俺に、断るという選択肢など、あるはずもなかった。


 俺は、二人の身体を、力強く、そして、優しく、同時に抱きしめた。


 「……わかった。もう、どこにも行かなくていい。ずっと、ここにいろ。俺が、お前たちの全部を、一生、面倒見てやる」


 それは、俺が、この二人に対して、そして、俺自身の新しい人生に対して、誓った、絶対的な決意の言葉だった。俺たちは、これから、ただの恋人でも、家族でもない。「雄」として生きる俺と、「雌」として生きる彼女たちが、共に生きる、新しい関係を、この小さな部屋で、築いていくのだ。その未来には、きっと、社会からの、多くの困難が待ち受けているだろう。だが、俺たちの胸には、不安よりも、遥かに大きな、三人で共にいられることへの、期待と喜びが、満ち溢れていた。

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