第7話 甘い言葉と愛撫の始まり


 湯気が、乳白色のベールのように俺たちの間に立ち込めている。その向こう側で、詩織は硬直したまま、ただ俺を見つめていた。シャワーの雫が彼女の肩を滑り落ち、豊かな黒髪に縁どられた白い肌の上を、きらきらと光りながら伝っていく。その一滴一滴が、まるで俺の視線を導くかのように、彼女の無垢な裸身の輪郭をなぞっていた。俺は、その光景から目を逸らすことができなかった。喉がカラカラに乾き、心臓だけが、まるで警鐘のように激しく脈打っている。


 俺はゆっくりと一歩、彼女へと近づいた。その分だけ、彼女の肩がびくりと震える。怯えさせてはいけない。だが、もう引き返す気もなかった。俺は、彼女の耳元に顔を寄せ、ほとんど吐息だけで構成されたような声で、甘く囁いた。


 「……綺麗だよ、詩織」


 その言葉が、魔法の呪文だったのかもしれない。彼女の身体から、ふっと力が抜けるのが分かった。俺は、壁際に置かれていたボディソープのボトルを手に取ると、その甘いフローラルな香りの液体を、自分の手のひらにたっぷりと注いだ。両手でそれを擦り合わせると、きめ細かく、温かい泡がもこもこと立ち上る。その官能的な感触が、俺自身の指先から、欲望の熱をさらに掻き立てていく。


 俺は、その泡をたっぷりと含んだ手で、まず、彼女の震える肩にそっと触れた。ひんやりとした彼女の肌と、俺の手のひらの熱、そして泡の温かさが混じり合い、詩織の唇から「ひゃんっ……❤️」という、猫がじゃれるような可愛らしい声が漏れた。その声が、俺の中に眠っていた支配欲を、さらに強く刺激する。


 俺は意図的に、彼女の胸や股間といった、最も敏感な部分を避けた。まずは、彼女の警戒心を解きほぐさなければならない。俺の指は、彼女のうなじから、滑らかな背中のラインをなぞり、腰のくびれへと滑り落ちていく。泡が、俺たちの肌の間でくちゅり、と小さな音を立て、その淫らな響きが、狭いバスルームの中で反響した。


 「んっ……ぁ……」


 詩織の身体が、俺の愛撫に合わせて、くねり、と艶めかしくしなる。彼女は、目をきつく閉じ、必死に何かに耐えるかのように、その桜色の唇をきゅっと噛み締めていた。その健気な姿が、俺の加虐心を煽った。俺は、彼女の身体を自分のものにしたいという、独占欲に満たされた衝動を感じながら、支配的な愛撫を続けた。泡にまみれた指先が、彼女の脇腹をくすぐるように撫で上げると、彼女の身体はビクンと大きく跳ね、さらに甘い声が漏れ出る。


 「あっ……や、だめぇ……❤️」


 その言葉とは裏腹に、彼女の身体は俺の愛撫を拒絶してはいなかった。むしろ、もっと欲しがるかのように、俺の手にすり寄ってくる。その矛盾した反応が、たまらなく愛おしく、そして、淫らに感じられた。俺は、彼女の弱点だと確信していた、その小さな耳たぶに唇を寄せた。


 「……声、出していいんだよ。もっと、聞かせて」


 囁きながら、その耳たぶを、甘く、しかし、確かな強さで食む。


 「ひぁっん!❤️」


 詩織の身体が、弓なりにしなった。今まで抑え込んでいた声が、堰を切ったように溢れ出す。その反応に満足しながら、俺の手は、ついに、今まで避けてきた聖域へと向かった。泡に包まれた指先が、その柔らかく、しかし、弾力のある豊かな膨らみに、そっと触れる。


 「んんっ……!!❤️」


 詩織が、今までで一番大きく、官能的な声を上げた。その声は、もはや羞恥ではなく、純粋な快感の色を帯びていた。俺は、彼女が俺の支配によって快感に溺れていくその様に、満たされることのない衝動と、どうしようもないほどの興奮を感じていた。

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