第2話 陰キャなボクより。
前回のあらすじ。
おれは陰キャです。
「いんきゃ……って?」
桜さんは口元に人差し指をあて、小首をかしげる。
「あ、ごめん。まあ……わかりやすく言えば、おれみたいに根暗なヤツの総称だよ」
「ちょ、根暗だなんてそんな……」
「わざわざおれみたいになろうだなんて、もったいないよ。なんなら桜さんみたいな陽キャにどうやったらなれるのか、おれが教えてほしいくらいだ」
「私みたいに?」
「そうだよ。クラスの中心にいつもいて、友達と一緒にキラキラできて。そっちの人生の方がぜったい楽しいよ」
桜さんは、ポカーンとした顔でおれを見つめていた。
そうか、陰キャを知らないなら陽キャも知らないか。おれが説明をしようとしたときだった。
「佐伯くんは、その"ようきゃ"になりたいの?」
「いや、別になりたいわけでは……まあでも、なれるもんならなってみたいかな」
「なりたいんだね?」
「生きてて楽しそうだし……まあ、うん。なりたい」
「わかった」
「え?」
「なんかよくわからないけど、佐伯くんはいんきゃ、私はようきゃ? っていうんだね」
「ああ、まあ、うん。面と向かって佐伯くんは陰キャって言われるとそれなりに食らうけどね」
「さっき佐伯くんは自虐っぽく言ってたけど、要するに無口なクール系のことを、いんきゃっていうってことだよね?」
「え、それはちょっと違う……」
「で、佐伯くんはようきゃに、私はいんきゃになりたい。そういうことだよね?」
「いやーそれはだいぶ違うような気が……」
「じゃあ、私が佐伯くんに、ようきゃのなり方を伝授してあげる! その代わり、私がいんきゃになれるようにレッスンをして!」
「字面やばいって! ぜんぜん等価交換になってないし!」
「ちょっとその、ようきゃっていうのがよくわからないから、まずはちゃんと調べてくるからね!」
「おおお、マジメなお方だ。でもそれは無駄な努力になっちゃうだろうからあまりオススメはしないぞ」
「それと、いんきゃのなり方については、この屋上でレッスンしてもらうってことでもいいかな? ここなら人も来ないし、こっそり練習できると思うんだ」
「陰キャのレッスン? もうパニックなんですが、おれって陰キャの伝道師かなんかだったっけ?」
「それと、ようきゃのレッスンの仕方だね! だれかに物を教えるってあんまりやったことないけど……私、がんばるから!」
「おれの知る限り、陽キャって訓練を積んでなるものではないぞ、たぶんあの明るさは生まれつきだぞ」
「ふふふ、レッスン楽しみだなぁ。やっぱり、佐伯くんにお願いしてよかった!」
「ははーん、さてはキミ、人の話は聞かないタイプだな?」
1人でとても自由な妄想を展開した桜さんは、自分で思いついた「陰キャのレッスンを受ける代わりに陽キャになるレッスンをしてあげる」というステキアイデアをいたく気に入ったらしい。
小躍りしそうな勢いで、というかもはや少し小躍りしながら満面の笑みを浮かべている。
なんだかとんでもないことになってしまった。
おれが陰キャなのは別に努力の賜物とかじゃなく、シンプルに人付き合いが苦手だったことによる結果にすぎない。
桜さんに変な期待をさせては申し訳ない。断るなら今のうちだ。
「あのー、桜さん。やっぱりこの話は……」
「あ、いけない! もうこんな時間!」
おれが話しかけたのと同時に、ふと腕時計を見た桜さんは、急にいそいそと荷物をまとめ始めた。
「ごめんなさい佐伯くん! 私この後ちょっと友達と予定があって……自分から呼び出しておいて、ほんとごめんね。そろそろ行かなくちゃいけなくて」
「……マックに行ってから駅前のカラオケに行くとか?」
「っ! なんでわかったの?!」
「それこそが陽キャだらかね」
「へええ……すごいね佐伯くん! ちゃんと分析してるんだ。データに基づいた発想ってやつだね!」
ダメだ、眩しすぎる。なんて純粋な子なんだ。ちょっと皮肉をこめて言った自分が恥ずかしい。
おれが自分自身の汚さに打ちひしがれている間に、彼女は「また明日ね!」と華麗に去っていった。
こうして、おれは陽キャを陰キャにするというとんでもない使命を背負うこととなってしまったのであった。
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