第6話 始まりの狼煙
接敵してすぐ戦闘は幕を開けたが、互いの実力が均衡し膠着状態になっていた。
目の前にいるダンジョンボスーー仮称ボスゴブリンは、俺を標的と定めて手に持っていた2メートルほどの巨大なこん棒を振り下ろしてくる。
俺はそれを紙一重で避けると、反動で硬直しているボスゴブリンへ向けて全力の拳を放つ。
だが、しかし。
「まずいな。やっぱり、たいして攻撃が効いてない」
今までだったら敵を一撃で葬り去ってきた100%の力の拳でも、目の前のボスゴブリンにとってはかすり傷だったようで平然ともう一度こん棒を振り下ろしてきた。
俺は敵へ攻撃を繰り出した直後だったので相手の攻撃を避ける余裕がない。
こん棒が自分の体へと接近してぶつかる、直前。
「マスター! 『テレポーテーション』!」
俺の体はボスゴブリンの近くから一変、少し距離の離れたアイリスの元へと移った。
「すまない、助かったアイリス」
「いえ、お気になさらず! ただ、テレポーテーションは魔力の消費量が多いので、あまり多用できない魔法であると覚えておいてください」
「了解!」
一緒に戦って分かったのが、アイリスは戦闘特化ではなく支援特化であるということだった。彼女は指先から銃弾を放って敵を攻撃するのだが、普通のゴブリンを倒すにも10発は攻撃が必要で、効率自体はあまりよくない。だとしたら彼女の強みは何かというと、支援系の魔法を数多く使えるという点だった。
そしてそのうちの一つが今のテレポーテーション、転移魔法だった。
だからこそ俺がボスゴブリンを相手し、アイリスは俺の支援と他のゴブリンが邪魔になりそうなら倒すという役割の分担をしている。
「マスター、敵が近づいています!」
その言葉の直後、大地を踏みしめる轟音と共に背後へ近づいてきていたゴブリンボスの姿が見えた。
奴は性懲りもなくそのこん棒を俺に向けて振り下ろす。俺はそのこん棒めがけて拳を放つ。2つが衝突した瞬間、エントランス全体に強烈な衝撃波が伝わりダンジョンが大きく揺れる。
「やっぱり、スキルを使わないと埒が明かないな」
大教室の時点で俺のタイムリミットは残り5分だった。
そうなると、現時点での残りはせいぜい2分程度だろう。
出し惜しみしている余裕はない。現状できる最大火力をぶつけるしかない。
「『チャージ』スタート!」
そう宣言した瞬間、手首にはまっている腕輪から俺の腕へ大量の邪気が流れ込んできた。それは最初に適合実験をした時と同じ痛み。
マグマが血管を通って流れているのではないかと錯覚するほどの灼熱。
「うぁああああああああ!」
それでも邪気の蓄積は止まらない。
ただ正直スキルの詳細を見た時に、こうなる予感はしていた。きっと恐らく、邪気と人間の体は相性が悪いのだ。体が拒絶反応を起こしているのを感じる。
だがその痛みも永遠ではなかった。
「充填……完了」
痛みが消えると、黒い籠手をはめた右腕は黒い電気のような光を発していた。溜めている邪気が漏れ出ようと蠢いているのだろう。
さっきまで目の前にいたボスゴブリンは、チャージの間アイリスが注意を引き付けてくれていたようだ。
「アイリス、交代だ!」
「かしこまりました!」
ヘイトを買ってくれていたアイリスに変わり、今度は俺が対峙する。ボスゴブリンは俺の右腕を見て明らかに挙動が変わった。
生命としての危機察知能力だろうか。
だが、気づいた時点でもう遅い。
「アイリス、頼む!」
「はい!『テレポーテーション』・『グレーターアタックバフ』起動!」
瞬間、俺はボスゴブリンの背後へ転移する。狙う個所は奴の後頭部。さらにアイリスの魔法により次の一撃にバフがかかった。
狙うべき一点を見据え、拳を強く引く。
痛みも恐怖も諦めも、この一瞬には全く存在していなかった。
ただ目の前の敵を倒すという事のみに思考を研ぎ澄ませ、俺は叫んだ。
「『バースト』!」
その一撃は、人から繰り出せる通常の一撃を遥かに凌駕していた。
腕からはちきれんばかりのエネルギーが、拳を通して敵に全て放出される。その衝撃音は、まるで雷のようだった。
「グギャアあああああああ!」
ボスゴブリンの頭部はそのエネルギーに耐えきれなかったのか消し飛び、首から下の巨体が大きな音を立ててダンジョンに倒れた。
それは、俺たちが勝利したということを確かに告げていた。
「よかっ、た……」
そこで俺は張りつめていた緊張の糸が切れ、ダンジョンにへたり込んだ。いつの間にか全身鎧への変身が解除されている。
そして同時に、目の前にディスプレイが現れた。
《ダンジョンボス撃破》
これにより、ダンジョン変異が解除されます
またボス撃破により、ゴブリンαの魔石がドロップしました。
更に経験値上昇に伴い、レベルアップしました。
その通知の直後、赤黒い血だまりのような外壁のダンジョンは、白を基調とした研究所へと戻る。それに伴って、ボスゴブリンの死体や保管ゴブリンも消滅した。
そこまで言届けると、俺の体力は限界を迎えたのか気を失った。
後悔は、少しもなかった。
人生を諦めていたおっさん、もう一度だけ立ち上がる〜いずれ史上最強と呼ばれる男のダンジョン英雄譚〜 土野子 @TUTINOKO136
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